e-sportsチーム生存戦略 コラム

e-sports業界の抱える問題 プロがプロとして活動できていない環境

前回は、e-sports業界の抱える問題として、企業がなぜe-sportsチームにお金を出さないのかの根本的な理由についてお伝えしました。今回は、業界を支える主役とも言えるプロ選手に起きている問題についてお伝えします。

プロチームに所属していたらプロなのか?

プロとは一般的には、その仕事で報酬をもらい、生活ができている人のことです。
e-sportsのプロ選手であれば、ゲームのプレイを通じて報酬をもらい、生活ができている人だと言えます。

e-sportsチームに所属するプロ選手は、チームから支払われる給料で生活をしています。その原資となるのが、スポンサーや大会の賞金、動画配信プラットフォームなどのメディアからの収益、グッズ販売などです。賞金やメディアやグッズの収益に関して、歩合で受け取る契約をしている場合もあります。

ですが、大半のチームは選手が生活するための十分な給料を払えていません。チームとして箱を作り、活動の拠点を提供しているだけの状況のチームは多いです。

チームが稼げていない理由は、第1回と第2回の記事でお話ししました。

vol.2
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すでに多くの企業からスポンサードされ、ある程度の資本力があるチームなら、通常の会社員くらいの給料を餌に選手を集めることができます。ですが、そんなチームはひと握りです。いえ、ひとつまみです。

なので、プロチームに所属していると言っても、仕事をしていたり、かなり切り詰めて生活をしているような選手もいます。

FPSなどは若いプレイヤー中心に盛り上がっているので、選手としてチームに招いてもそれほど高い報酬がなくても生活ができます。自宅で暮らす学生なども多いので、お小遣い程度の報酬があればそれで十分に満足してくれます。

本人たちも今は報酬よりも、ゲームに打ち込める環境、強いチームでよりスキルを磨くことに重きをおいているので、稼げていないチームにとってコスパの良い投資先だと言えます。

そのため、チームが生まれやすく、また消滅しやすい状況がありますが、生活できるだけの十分な収入がなくても、プロとして活動できる環境があります。

プロライセンスがあればプロなのか?

格闘ゲームをはじめとする国内の競技タイトルでは、プロライセンスが発行されることで、プロ選手として認定されている状況があります。

実力が認められ、プロライセンスを手にしたとしても、それだけで何処かから給料がもらえるわけではありません。給料をもらえるチームに所属するか、自分自身にスポンサーをつけて収入を得るか、または動画配信によるメディア収入を手に入れるかなど、生活していくためには自力で収入源を作る必要があります。

ですが、それはすぐに実現できるような簡単なことではありません。なので、フルタイムで働きながら、仕事が終わってから練習をするような生活をしている人は意外と多いです。

専業プロ、兼業プロという言葉が存在するように、同じプロとしても過ごしている環境に大きな違いがあります。1日中トレーニングできる人と、1日2~3時間しかトレーニングできない人とでは、やはり実力にも経験にも差が広がっていきます。

実力がありプロになれたとしても、それで生活ができる環境ではないのが現状です。

このプロの線引きが曖昧なe-sportsの業界について考える前に、他のスポーツとe-sportsのチームの状況の違いについてお伝えさせていただきます。

他のスポーツのチームとe-sportsチームとの違い

わかりやすい例として、サッカーや野球などは、リーグに参加できるチームが決まっていて、そのチームに所属できた人がプロだと言えます。

各チームにオーナー企業がいて、チームにはスポンサーもついていて、すでにビジネスモデルが確立しています。チームには安定的な収入があるので選手にも給料を支払うことができます。

プロチームに所属すること=プロとして報酬を得ることになります。これが当たり前のプロ選手の在り方だと思いますが、e-sportsにおいては前述のように肩書きと実態が一致していない状況があります。

一般的なスポーツチームの収入源には、「広告料収入」「入場料収入」「物販収入」「放映権収入」の大きく4つがあります。

広告収入とは、スポンサー企業がPR費用として支払うお金です。
入場料収入は、試合の入場者が支払う入場料です。ホームスタジアムでの開催時に得られます。
物販収入は、グッズ販売によるお金です。
放映権収入は、試合を中継するためにメディアがリーグに支払うお金です。リーグに参加しているチームに分配される仕組みになっています。

活動のベースにリーグがあり、全てのチームがそのリーグで勝つことを目指して争っています。

ですが、e-sportsにおいては、リーグを主体とした活動環境が整っているゲームはまだまだ少ないです。そのため、単発開催される大会しかプロ選手の活躍の場がなく、安定的に収入を得る機会を作れていない状況があります。

大きな大会が年に1回しか開催されない場合、その1回に対してお金を出したいと思ってくれる企業は少ないです。

リーグがあれば、活躍の機会も多く、優勝のインパクトも大きくなります。一部のリーグを整備できているゲームでは、メーカーからの支援もあり、プロとしての安定を手に入れることができます。

なので、そういうゲームでは多くのプロプレイヤーが参加し、結果的にそのゲームの競技人口を増やすことに繋がっています。

まとめ

これらのことから、まだまだスポーツビジネスとして根差すだけの材料が集まっていないのが、今のe-sportsの業界だと言えます。

世界的に活躍する選手が誕生すれば、注目されます。

ですが、世界的に活躍する選手が誕生するためには、国内で競い合う強いプレイヤーが増えなければいけません。

そして、強いプレイヤーを増やすには、トレーニングに打ち込める環境が必要です。

そのため、選手が生活できる基盤をチームが用意しなければいけません。

チームを黒字化するためにやるべきことについては、このシリーズの後半でお伝えします。

 

筆者プロフィール

 

平岡大輔
GO CRAZY GAME(GCG)プロデューサー
ゲーミングサプリ「ガチサプ」開発&販売責任者
マーケティング脳をつくる会社 株式会社テマヒマ 代表取締役

自身が格闘ゲームに没頭したことを皮切りに、ガチゲーマーのためのパフォーマンスサプリ「ガチサプ」を開発、e-sports業界の発展のためにコミュニティ活性化に努めている。

e-sportsチームの内情を知り、業界の発展のためには「e-sportsチームが事業として黒字化できるビジネスモデル」の構築が必須だと考え、チームの収益化のための活動に取り組むプロジェクト「GO CRAZY GAME(GCG)」を立ち上げた。

100社以上の企業のマーケティング支援、組織改善に取り組んできた経験とノウハウを使って、e-sportsチーム事業の収益化・安定化を実現させるために活動中。

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