e-sportsチーム生存戦略 コラム

e-sports業界の抱える問題 黒字化ができない収益構造【後編】

前回は、e-sports業界の抱える問題として、収益化の構造と、多くのチームにとってスポンサー企業を集めることが難しい理由についてお伝えしました。今回は、企業がなぜe-sportsチームにお金を出さないのかの根本的な理由についてお伝えします。

企業がお金を出さない根本的な理由

e-sportsチームにスポンサードしている企業のお金の出どころは「PR予算」です。PRとは公で知られる機会を作ることであり、広告のような直接的なアプローチではなく、メディアで取材をされるなど、コンテンツとして企業や商品の認知を広げていく手法です。

例えば、ラーメン屋さんが話題のメニューを開発して、地元のテレビ局に取り上げられたとします。そのテレビ番組を見て、そのお店のことを知って話題のメニューを食べに来る人が増えれば、お店の売上は上がります。このお店がやったことは、話題を作りメディアで取り上げてもらっただけです。メディアで露出することで商品を知ってもらう機会を作り、最終的な売上へと繋げるのがPRの目的です。

e-spotrsの場合だと、大きな大会で優勝してメディアに選手が取り上げられた時に、スポンサー企業として露出機会があったり、ファンに対しての動画配信で企業や商品の紹介をしてもらうことがPRに繋がります。

年間に数百万、数千万の規模で継続的にPR予算を確保できている企業は多くありません。特にスポーツチームへのスポンサードなどを積極的に行っているのは、大企業の中でもひと握りだと思います。

なぜなら、PRは結果がわかりにくい施策だからです。メディアに取り上げられたことが、どう収益に影響したのかを知るすべはなく、投資対効果を測れません。

特にチームのスポンサードメリットでよくある「ユニフォームへのロゴ掲示」がありますが、あれを見たからといって、売上にインパクトを出せたのかどうかなんて測ることはできません。

元々はテレビに映ることを最大のメリットとして、企業は人気スポーツのスポンサードをしてきました。ですが、テレビを見る人も減り、テレビ露出されることのメリット自体が小さくなっているので、その露出に対する価値も減っていると言えます。

さらにe-sportsで言えば、TVで放映されるなどの露出機会もないので、野球やサッカーなどと同じようなスポンサーモデルは、そもそも破綻していると言えます。

歴史のあるスポーツのビジネスモデルを参考にして、同じようにしようとしているところに、多くのe-sportsチームがスポンサー企業を集められず、収益化できていない原因があります。

企業は売上を最大化するために、費用対効果の良い投資先を常に探しています。より直接的な効果を得られる広告にお金を使う企業は多いですが、PRにお金を回せるほど資金に余裕のある企業は多くありません。

PRにお金を使う企業は、最終的には収益としてのリターンを得られると思って投資しています。ですが、PRにお金を出さない多くの企業はその施策に対して、最終的に収益として返ってくる投資先としての見込みが薄いと感じています。

そもそもPRという効果が測りづらく、再現性のない施策に対して、数百万円、数千万円というお金を使える企業がいないことが、従来型のスポンサードによる収益化を目指しているe-sportsチームが黒字化できない根本的な理由です。

なので、PR予算を取りに行くという前提から脱却できなければ、現状を打開することはできません。現状を打開するための方法については、この連載の中でご紹介しますので、次回以降も是非楽しみにしていてください。

 

筆者プロフィール

 

平岡大輔
GO CRAZY GAME(GCG)プロデューサー
ゲーミングサプリ「ガチサプ」開発&販売責任者
マーケティング脳をつくる会社 株式会社テマヒマ 代表取締役

自身が格闘ゲームに没頭したことを皮切りに、ガチゲーマーのためのパフォーマンスサプリ「ガチサプ」を開発、e-sports業界の発展のためにコミュニティ活性化に努めている。

e-sportsチームの内情を知り、業界の発展のためには「e-sportsチームが事業として黒字化できるビジネスモデル」の構築が必須だと考え、チームの収益化のための活動に取り組むプロジェクト「GO CRAZY GAME(GCG)」を立ち上げた。

100社以上の企業のマーケティング支援、組織改善に取り組んできた経験とノウハウを使って、e-sportsチーム事業の収益化・安定化を実現させるために活動中。

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