8月26日(土)に行われた格闘ゲームイベント『俺を獲れトーナメント』第1回戦。このイベントではショッキングな出来事が起こりました。
プロゲーマーが、11歳の小学生に敗北したのです……!
今回はその出来事と、それから考えるeスポーツの在り方について紹介しちゃいます。
『俺を獲れ』とは?
『俺を獲れ』は、ウメハラ選手が主催するオーディション企画です。かつて人気を博したテレビ番組『マネーの虎』や、YouTubeチャンネル『令和の虎』を想像していただくと分かりやすいかと思います。
志願者は、ウメハラ選手をはじめとした格闘ゲーム関係者や企業の社長の前で、自分の叶えたい夢や企画をプレゼンします。そして、そこで見事選考を通過した人は出資を受けて活動をすることができるという企画です。
8月に行われたササモ選手対レオ選手の試合は、この『俺を獲れ』から派生したイベント『俺を獲れトーナメント』にて行われました。このイベントでは志願者の中の『ストリートファイター6』(スト6)プレイヤーたちによるトーナメントが行われ、優勝者はその夢や企画を実現することができるという内容となっています。
ササモ選手 紹介
年齢:23歳
所属:FUKUSHIMA IBUSHIGIN
使用キャラ:ディージェイ(LP76657、MR1845 ※対戦当時)
参加理由:日本国籍を取得するため
ササモ選手は、Street Fighter League (SFL)ではSaishunkan Sol 熊本に所属しているプロゲーマーです。日本の永住権を持つ在日ブラジル人ですが、今回は日本国籍を取得するための条件「安定した収入」を得るために『俺を獲れ』に参加しました。
2020年頃に『ストリートファイターV』(ストV)からプレイを始めたプレイヤーですが、格闘ゲーム歴は短いにも関わらずすぐに頭角を現しトッププレイヤーの一人となりました。
レオ選手 紹介
年齢:11歳(2012年生まれ、小学生)
所属:無所属
使用キャラ:ルーク(LP52167 ※対戦当時)
参加理由:ウメハラ選手と対戦がしたい
レオ選手は"レオ君"の愛称でもお馴染みの、若手のプレイヤーです。
『スト6』を発売しているメーカー、カプコンの公式大会では参加条件として年齢が満15歳以上であることが定められています(恐らく『スト6』がCEROレーティングが15歳以上のため)。そのためレオ選手は対戦会に参加し話題になることはあれど、今まで大会で目立った活躍をすることはありませんでした。
試合の様子と結果
ササモ選手が使うディージェイ、そしてレオ選手が使うルークはどちらも強キャラといわれいます。どちらも豊富な技を持つバランス型のキャラクターです。
格闘ゲームは1対1で行われるため、キャラクターの相性が色濃く出る傾向にあるといわれていますが、この2キャラクターは万能型ということもあり、極端な差が出ることはありません。
しかし、5本先取で行われた試合は、5-1でレオ選手が勝利という結果となりました。
試合内容は終始レオ選手が積極的な攻撃を仕掛け、ササモ選手がそれに対応するという形でした。レオ選手はバーンアウト状態(弱体化状態)になることが多いのが印象的でしたが、そこからの攻めや守りまで織り込んだ立ち回りをしていたようです。
プロとアマ、そしてeスポーツ
「プロゲーマーが、始めて3ヶ月の小学生に負けた」という事実は非常にショッキングなものでした。
プロゲーマーとは、そしてeスポーツとは一体何なのかということについてお話していきたいと思います。
プロとアマチュアの差って何?
試合結果の要因を考えてみる
「レオ選手の才能が凄い!」「格ゲー界の藤井聡太になるのかもしれない」といった肯定的な意見もある中、「プロゲーマーが小学生に負けるとはどういうことだ」という声があるのもまた事実。
今回の試合結果には次のような要因があったことが考えられます。
・『スト6』は発売から3ヶ月弱で、本作の経験の差が顕著に出る期間とは言い難い
格闘ゲームは、過去作の経験が活きやすいジャンルです。とはいえ、新作が出るたびにシステムが刷新されるため、新たに研究する必要もあります。
今回の試合は『スト6』の発売から約3ヶ月弱という短い練習期間で行われたため、実力の差は比較的出にくかったのかもしれません。
・5本先取は短期~中期決戦の試合形式である
格闘ゲームでハッキリ白黒を付ける際にはよく10本先取マッチ(10先)が行われることが多いですが、今回は5本先取という短期~中期決戦といえる試合形式です。また、格闘ゲームは高速で読み合いが繰り広げられるため、読み勝ち/読み負けという運の要素も多少なりとも絡んできます。
総じて、今回はレオ選手の勝利ではあるものの、試合結果だけで実力の優劣を判断できるとは言い切れないところがあります。
・レオ選手の動きにササモ選手が慣れるまでに時間を要してしまった?
プロゲーマー同士の試合は、リスクを減らし慎重に行動するため、ときにはタイムアップまで試合が長引くことがあります。対してレオ選手は積極的に攻めることで、自分のペースに巻き込むような展開を作り上げていました。
レオ選手のアグレッシブな動きに、ササモ選手は対応できないまま試合が終了してしまったのかもしれません。
・ササモ選手へのプレッシャーが大きかった?
ササモ選手からすると「自分はプロゲーマーで、相手は11歳の小学生」ということで、はたから見ればこれは絶対に負けられない試合と捉えられるような状況です。ある意味ではササモ選手は相当なリスクを負っていたということもあり、いつも以上に緊張していたことが考えられます。
今回の試合結果には様々な要因が考えられますが、レオ選手の勝利であることに何ら変わりはありませんし、レオ選手の強さには目を見張るものがあります。時期が違ったら、試合形式が違えば、また試合結果は変わったかもしれませんが、与えられた条件や試合形式で勝つこともまた強さの指標の一つとも言えます。
端的に言えば「二人とも強い」「今回はレオ選手が勝った」ということだけが事実かもしれません……。
プロとアマの差は縮まってきている
現在プロゲーマーとアマチュアゲーマーの実力の差は、ひと昔前より縮まってきています。
・インターネットの普及、特にSNSの普及により攻略情報が速く広く出回りやすい
1990年代~2000年代前半の格闘ゲームの情報源は、雑誌や個人サイト、プレイヤー同士での情報交換が主でした。今では公式サイトで攻略に役立つ情報が発信されるほか、Twitter(現X)やDiscord(ディスコード)などのSNSやツールによって情報交換が簡単かつ活発になりました。
そのため、現在では情報や知識による差は生まれにくくなっていると言えます。
・高品質なネット対戦により、都心と地方の差が縮まった
格闘ゲームは、以前はゲームセンターでの対戦が主流で、上級者たちは盛り上がっているゲームセンターに集まって対戦をしていました。そのため地方に住んでいるプレイヤーや、ゲームセンターに足しげく通うことのできない人は不利でした。
しかし、今ではネット対戦がオフライン対戦と遜色なくできるため、都心のゲームセンターに通えない人でも気軽に対戦することができるようになりました。
以上のような理由からプロとアマチュアの差は縮まってきているというのが現状です。
では、プロとアマの違いって何?
正直なところ、プロゲーマーの定義は人によって様々です。
・大会で優秀な成績をコンスタントに収めている
・ゲーム内ランキングで上位を維持し続けている
・JeSUプロライセンスを所持している
・企業や個人から物品や金銭を授受している
・ゲームプレイやそれに付随する行為だけで生計を立てられている
・本人がプロゲーマーであると宣言している
等々、これらのことが複雑に折り重なって、人それぞれのプロゲーマー観のようなものがあります。
プロゲーマーがアマチュアに負けてしまうことは「大会成績」や「ランキング上位維持」など実力に関する定義に反するので、プロゲーマーとしてあるまじきことと考える人もいるかと思います。
しかし、他の定義についてはゲームの実力だけではなく、人気やどれだけ利益を得ているかも含まれています。そのため、今ではプロゲーマーとストリーマー、さらにはセミプロ、アマチュアゲーマーの垣根はかなり曖昧になってきています。議論を放り投げるようなことを言ってしまえば、プロかそうでないかを考えること自体が無意味なのかもしれません。
トッププレイヤーであるササモ選手に勝利したレオ選手は実力的にはプロゲーマー級といえますし、トップ層に位置し続けチームにも所属しているササモ選手は誰もが認めるプロゲーマーです。ただ一つここで強調しておきたいのは、実力だけがプロゲーマーの定義や指標になる訳ではないということです!
eスポーツは底が浅いのか?
「小学生でも大人のプロゲーマーに勝てるなんて、eスポーツは底が浅いのではないか」
そう考えてしまう人もいるかもしれません。たとえば、じゃんけんのように知識や経験、練習が必要なく、運だけで勝負が決まるようなゲームは底が浅いと言えるかもしれませんが、果たして格闘ゲームやeスポーツもそうなのでしょうか?
もちろん答えはNOです!
たった一試合を見ただけで底が浅いと決めつけるのは早計です。ゲームは、eスポーツは、奥が深いんです!
・年単位でプレイされ、研究が進んで新しい戦術が生み出されている
・チェスや将棋のようなマインドスポーツのように、強くなるためには練習や知識が必要
・スポーツのようなリアルタイムでの駆け引きが行われる
eスポーツはマインドスポーツとスポーツの両方の側面を併せ持ち、それらと同様に競技と娯楽の両方の側面があります。そして老若男女問わず誰でも楽しめる公平性や、気軽に始められる手軽さがあります。
ゴルフでも1ホールだけであればプロがアマチュアに負けることはあっても、18ホール回ればプロが勝つことがほとんどです。それと同じように、eスポーツでもプロがアマチュアに負けることはあります。たった一試合だけを見て「eスポーツは底が浅い」なんて決めつけず、そこに生まれるドラマやストーリーに注目してほしいと思います!
新しい世代の台頭は喜ぶべきこと!
格闘ゲームは特に90年代に大ブームを巻き起こしたジャンルで、その影響かプレイヤーの年齢が高い傾向にあると言われています。それはプロシーンにおいても同様です。
しかし『スト6』の発売で、新規プレイヤーが増えたことでこれから若い世代が台頭してくる可能性があります。
若い世代や新規プレヤーの流入がなければ界隈は先細りするのみ。eスポーツはフィジカルスポーツと比べ身体能力を要さないのが良いところですが、いずれは世代交代が行われていくことが今後業界が長続きしていくことには必要ではないでしょうか。
ササモ選手、レオ選手はどちらも若く、彼らの試合はまさに新世代の台頭を予感させるものでした。今後の業界全体の盛り上がりが楽しみです!
(本記事の画像には、動画『俺を獲れトーナメント 1回戦 【フル版】』よりスクリーンショットを撮影・引用しております:https://www.youtube.com/watch?v=WWoir0Ld9ds)