eスポーツの勢いはとどまることを知らない。
コロナ禍においてIOCはeスポーツを使用したオリンピックイベントの開催を発表し、日本ではdocomoが賞金総額約3.5億円のeスポーツリーグ「X-MOMENT」を主催している。
ゲームの主となるターゲット層は10代であり、これからの未来を担うものが集まる場所として、ゲーム・eスポーツへの関心が教育者の中で高まっているのだ。
日本のeスポーツと教育の未来を作る「NASEF JAPAN」
NASEF(North America Scholastic Esports Federation)は、次世代を担う若者が社会における「ゲームチェンジャー」になるための教育に取り組むNPO団体だ。
2020年11月に日本支部となるNASEF JAPANを設立し、参加高校数は49校にも及んでいる。
そんな彼らが今年3月20日に開催した「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット2021」では、eスポーツが教育のツールとして効果があると立証する事例として、「STEM(科学・技術・工学・数学)教育やコミュニケーション、学校への帰属意識や大人との関係などほとんどの項目でプラスの結果が出ている」とのデータを開示した。
参考:「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット2021」基調講演レポート。実社会で通用するスキルを学ぶツールとしてのeスポーツの効果
今後ますますeスポーツは教育の場として成長していくことに違いはないが、1つ気になるデータを発見した。
それは、「感情のコントロールについては逆で、NASEFのプログラムを受けた生徒は、そうでない生徒に比べて忍耐力が低い傾向がある」ということだ。
オンラインゲームで学べることと、「知ってしまうこと」。
先日テレビを見ていると、「ゲーム学習論」についての特集をしている番組を見つけた。
参考:「TBSテレビ「ひるおび!」公式Twitterアカウント」
ここでは「スプラトゥーン」が用いられており、陣地を取る・敵を倒す・武器を選ぶといった行為が「戦略的に考え、見通しを立てる力」として紹介されていた。
このスプラトゥーンというゲーム、大きな特徴はシューティングゲームで銃などの武器を使い敵を倒すという要素の他に、銃の弾である「インク」を使って、陣地を広げるという独自のゲームシステムがある。
プレイヤーの操作する「インクリング」は、ヒト状態とイカ状態を切り替えることができ、ヒト状態では銃撃。イカ状態では塗ったインクの中を自由に行き来することが出来るのだ。
この仕組みを利用し、プレイヤーは"あえて"インクの中を移動せずに、その場に佇むことで敵から姿を隠し不意を突くという「潜伏」という戦法が存在している。
これは初心者から上級者まで全員が使うスプラトゥーンの基礎的なテクニックであり、確立された戦法として存在しているものの、不意に敵が現れるとびっくりしたりイラついたりしてしまう、なんてこともあるのだ。
スプラトゥーンでは、このテクニックを"悪用"したバッドマナーがある。
その名も、「煽りイカ」だ。
ヒト→イカ、イカ→ヒトと変身する操作を素早く行い、意図して敵を煽る行為を指す。
語源はもちろん、アオリイカから来ている。
このゲームを上手くなるために真剣に取り組んでいる中で、敵に倒され煽られると、どんな人間だって良い気持ちにはならない。
スプラトゥーンに限らず、銃を用いたゲームでは敵を倒す以外に不用意に弾を発射する「死体撃ち」だったり、他ジャンルでは屈伸やスタンプ・エモートといった遊び要素が煽り行為として認められる場合もある。
オンラインゲームを取り組めば、早かれ遅かれこれらゲームのバッドマナーとは遭遇することになるだろう。
「怒りを我慢しない」ことで得られるeスポーツの「勝利」。
性格や忍耐力の面で影響を及ぼすのは、煽り行為だけではない。
スプラトゥーンのナワバリバトルというモードでは一試合たったの「3分」で行われ、このゲームに限らず一試合1~5分で完結するものも多い。
そんな中でプレイヤー達はより多くの情報を仲間たちと共有し、敵の位置を把握したり、状況に応じて行動を変えてみたりする必要がある。
トッププロの中には、情報共有を行うボイスチャットに関してもチーム内で綿密な会議を行うチームだって存在する。
例えばマップ内の地名の総称をより短いものに変えてみたり、より重要度の高いものを素早く正確に伝えたりするために発言しないことを決めているプレイヤーも存在している。
それほどまでにゲームにおける発言内容や情報共有は重要であり、これがeスポーツを介すことでコミュニケーション能力が上昇する要因と言えるだろう。
しかしここで忘れてはいけないのは、"速度"が精度と同様かそれ以上に重要になってくるということなのだ。
例えば、日常生活において怒りの感情を表に出すことは少ないものの、敵に倒されたり、狙撃されることで敵の位置を把握出来た場合、最優先事項として味方に共有しなければならない。
仮に2vs2という状況下で、味方が隣にいるにも関わらず自分だけに射線が集まると、「どうして自分だけが狙われてしまうのか?」と思うことが自然だろう。
コンマ1秒という一瞬を争う状況下では、「敵に苛立ちを覚える→一度苛立ちを抑える→落ち着いて報告する」と怒りを抑えるような行動は極めて弱く、「苛立ちのまま味方に敵の位置を報告する」といった流れが最も効率的で、勝利のためには必要になってくる。
私の考察に過ぎないが、このような「勝利を求める活動」の中で感情のコントロールを"しない"ということが勝つための答えになってしまい、忍耐力の低下に繋がってしまっているのではないかと考える。
子供がeスポーツを通じて成長する上で、大人の方々に知っておいてほしいこと。
「ゲームは学習に悪影響を及ぼす」と教育されてきた私にとって、ゲームが教育に良い影響を及ぼすと言われる時代が来るなんて想像もしなかった。
親の言うことを聞かずにゲームばかりに時間を注いできた自分にとって、やっと理解してもらえる時代になったんだなと感じられるのは幸せなことだ。
今後もっとゲームの評価はより良いものになっていくだろうと確信しているし、ゲーム=悪だと教育する親世代も少なくなってくると予想されるが、ゲームの全てが子供にとって良いものではないということは、ゲーマーの代表として伝えさせてほしい。
これからもゲームの良い影響や悪い影響についての議論は行われていくだろう。
そんな中で私が伝えたいのは、世間がこうしているからという理由でゲームを強制したり取り上げたりしないでほしいということだ。
今後メディアによってゲームやeスポーツの良い側面について報道されることが多くなると予想出来るが、ゲームには良い面も悪い面もある。
私はゲームを学校やスポーツのように強制されてこなかったからこそ夢中になれたし、大切なことを学べたと思っている。
ゲームが強制された場合、ゲームから様々なことを学びゲームを好きになる若者も出てくるだろうが、その逆も少なからず生まれてしまうだろう。
メディアやインターネットから得られる情報を元に、ゲームが子供にとって良いものか悪いものかを判断することはもちろん大切だが、時間が許すのであれば自分たちでゲームを遊んでみてほしい。
ゲームを遊んだこともない人間が、ゲームを評価するなんて馬鹿げている。
ゲームはこれからの日本の未来を担う若者の育つ場所だ。
そこから子供たちを守ることが出来るのは、他でもない大人たちである。
【執筆者】
よろず
eスポーツに関するコラムをnoteにて執筆中。noteのフォロワー数は6800人以上、累計150000PVの実績をもつ。
https://note.com/yoro2u
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