対戦ゲームの中には、多くの「煽り」と捉えられる行為やシステムが存在している。
フォートナイトの「エモート」、クラッシュ・ロワイヤルの「スタンプ」、ストリートファイターの「屈伸」など、本来の目的とは違ったとしても、ゲームジャンルを問わず煽り行為が存在しているのだ。
しかしゲームを純粋に楽しむものたちにとって、この行為は決して認められるものではない。
その為、不快に思ったプレイヤーがいればそのプレイヤーと会わないように、もしくはそんな思いを他の人がしないために、多くのゲーム機やゲーム内に通報やブロック機能が含まれている。
煽り行為を初めとした嫌がらせが原因で、プレイヤーが離れていってしまうのは、ゲーム制作者側にとってもマイナスでしかないからだ。
しかし、この「煽り」という行為は相手に不快な思いをさせる、つまり相手に「精神的なダメージを与える」ことが可能になる。
eスポーツにおいて、メンタルは非常に重要な役目を果たしており、ストリートファイターのプロ選手である「ときど」選手は、一試合ごとに水を飲んだり、1日ごとに自分を振り返る通信簿を書くということをルーティーンとしている。
参考:新R25「“落ちない”秘訣は毎日つける「25項目の通信簿」。プロゲーマーときどが語るメンタル安定法」
「メンタルを保つ」という事が重要であると共に、「メンタルを揺さぶる」行為も重要であるという視点を持つことが出来る。
eスポーツにおいて、煽りは戦術なのだろうか。
「煽り」の重要性。
参考:Core-A Gaming「煽りと心理戦についての分析」
ゲームをプレイしていて、不快に思うのは煽りだけではない。
寧ろ、不快に思わないという人も多くいるだろう。
当然、最もメンタルに影響を与えるのは「負け」そのものにある。
アマチュアは幾ら試合に勝とうが負けようが責任を伴わないが、プロは勝つという目標の元に存在するため、負け1つにとっても大きなリスクが付きまとう。
加えて、eスポーツの世界において「プロがアマに負ける」事は良くあることなのだ。 これはマイナスの面に捉えられるように思えるが、eスポーツの大きな特徴(プラス)でもある。
ゲームの多くには、「運要素」が含まれているからだ。
いまいちしっくりこない人はマリオカートを想像してもらえると分かりやすいかもしれない。
道に並べられたアイテムからは何が出てくるかは予想出来ないし、試合ごとにどんな攻撃をプレイヤーから仕掛けられるかは当事者すらも分からない。
だからこそ初心者でも1位を取れること(誰もが楽しめるような仕掛け)があるし、上級者でも負けてしまうことがある。
eスポーツにおける強さとは様々あるが、このような散りばめられた運要素をいかにコントロールするかに限るだろう。
つまり、「負けても仕方がない」というメンタルの保ち方が可能になる。
対して、全く運要素が絡まない事象もeスポーツには起こりうる。
ストリートファイターで自分も対戦相手も「リュウ」というキャラクターを使っていた場合、一定のハンデがない限りその試合は運の絡まない「実力勝負」と呼べるだろう。
もしもこのような実力勝負の環境下で、相手に精神的なダメージを与える行為は非常に有効的であると断言できるし、「煽り」という行為の重要性も証明することができる。
なぜなら、「負けても仕方がない」というメンタルの保ち方が出来ないからだ。
しかしここで大切になってくるのが、その行為が果たして"必要であるか"ということだ。
煽りという行為の「必要性」。
先程も話したように、ゲームは「遊び」であるから、本来はユーザーが"楽しむもの"として作られている。
煽りをする当人が煽りを楽しむものとしてその行為を行っていたとしても、煽りを受ける人間が楽しめなかったり、不快な気分になってしまうのならそれは認められる行為ではない。
つまり、ゲームを純粋に楽しむものにとって煽りという行為は必要ではない。
ただ、eスポーツが「エンターテイメント」だとするならば、その煽り行為は「パフォーマンス」、つまり"必要なもの"として受け取ることができるだろう。
例えば、「モンストスタジアム」のプロツアーで、ゲーム外だが試合前にインタビューされる意気込みでは、煽りとも受け取れるようなシーンがある。
参考:モンスターストライク公式「【ツアーファイナル】モンスト プロツアー 2019-2020」
モンストのプロ同士の交流はTwitter上で頻繁に行われていて、ファンもチーム同士の仲が良く、お互いに「リスペクト」を持っていることを知っているからこそ、その煽りや挑発 を「ファンを盛り上げるためのエンタメ」だとして受け取る事ができる。
しかし、もしもeスポーツが「競技」だとするならば、煽りはスポーツマンシップに沿った相応しい行為だと受け取れるだろうか。
例えば賞金1億円大会の決勝戦で、勝てばその賞金が得られるというタイミングにおいて、有効な手段だとして煽り行為を行い、その結果多大な賞金を得たとして、そのプロゲーマー、所属するチームやスポンサーのイメージの向上に繋がるだろうか。
幾ら勝ちにこだわるプロだとしても、その強さは正当な理由で証明してほしいとファンは思っているし、モンストスタジアムの煽り行為は、試合中の真剣なプレイングがあってこそ成り立っている。
幾ら戦術だとしても、それがチームや選手活動の中でプラスに受け取れるものでなければ、有効な手段だとは言えないだろう。
"たかが煽り"のブランディング。
煽りについて考える事は些細なことかもしれないが、eスポーツの存在を考えることと似ているだろう。
eスポーツは様々なゲームは勿論、ジャンル、理念、企業のもとに成り立っているから、どのゲームも一律に煽りを禁止する必要はないし、寧ろ「OK」だという競技があっても面白いだろう。
格闘技は、柔道や空手だけでなく、プロレスもその1つとして尊重されている。
なので、一概に煽りが良いとも悪いとも言えないが、1つ言えるのは、「煽り」という細かな要素まで考えなければ、eスポーツは更に高度な次元へと進めないのではないかということだ。
eスポーツはエンターテイメントなのか、果たして極めて技術や戦術を求められる競技なのか。
eスポーツを愛するすべての人々が改めて考える必要があると私は考えている。
「なんとなくイメージが良くないから煽りを禁止にする」。
「人が不快になるからやめましょう」。
いつからゲームの世界は第三者を気にしなければならなくなったのだろうか。
人が不快になることを良しとしたいわけではないが、人は自由を求めて生き続ける。 企業や社会が求める価値観に侵食され続けてしまうと、業界は"カネ"の匂いしかしなくなる。
"たかが煽り"が、今後のeスポーツを大きく動かすことになるだろう。
【執筆者】
よろず
eスポーツに関するコラムをnoteにて執筆中。4月から新大学一年生の18歳。noteのフォロワー数は6800人以上、累計150000PVの実績をもつ。
https://note.com/yoro2u
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