ニールセン社が発表した「THE ESPORTS PLAYBOOK: ASIA - MAXIMIZING INVESTMENT THROUGH UNDERSTANDING THE FANS」において、アジア市場のeスポーツファンのほとんどはミレニアム世代(22〜37歳)だと言われています。
参考:「THE ESPORTS PLAYBOOK: ASIA - MAXIMIZING INVESTMENT THROUGH UNDERSTANDING THE FANS」
多くのeスポーツタイトルは無料で遊ぶことができるソーシャルゲームであり、幅広いプラットフォームで遊べることから若年層のプレイヤーが多く存在しているのです。
そんな中2021年9月、秋田県で「マタギスナイパーズ」というチームメンバー全員が65歳以上という日本では異例なチームの発足が発表されました。
実は海外にもシルバースナイパーズという平均年齢73歳を越えるチームが存在しており、高齢者をターゲットとしたeスポーツの活動をする人々、企業も増えています。
勝つことを目的とするのがeスポーツの世界であるのならば、やはり若い世代から選手を探し、チームや企業が支援を行うことで次世代の世界に通用する選手を輩出するべきではないでしょうか。
今回の記事では、日本のeスポーツ業界においてシニアeスポーツチームが取り組みを行うことにどんな意義があるのかを考察していきます。
eスポーツ競技者に若者が多い理由。
シニアeスポーツチームの話をする前に、まずは現在のeスポーツシーンについて整理してみましょう。
QTnetが公開している「多くの企業がeスポーツに参入するワケとは?」という記事の中では、「特にテレビを視聴しない若者に対しての広告手段として、様々な企業がeスポーツに注目している」と述べられています。
あくまでも私の推測に過ぎませんが、若者に対して有効な広告手段である理由に関しては、多くのeスポーツタイトルが無料でプレイ出来るということとゲームを遊ぶプラットフォームが関係しているのではないでしょうか。
ゲームには大きく分けて売り切りタイプと呼ばれるものと、F2P(フリー・トゥ・プレイ)と呼ばれる基本無料のものの2種類が存在し、人気のeスポーツゲームではF2Pタイプが主流であると言われています。
これらのゲームはいかにユーザーを増やし、長く遊んでもらうかが収益を上げるためのポイントとなっているため、ゲームを無料にするだけでなく、遊べる機種(プラットフォーム)を多く設けるということも収益を増やす上での大切なポイントとなってくるのです。
現在大流行しているバトルロワイヤルジャンルのゲームでも、人気作となったもののほとんどはPCのみならず、PS4やNintendo Switchといったコンシューマー機でのプレイを実現したり、スマートフォンでのプレイを可能にしたものが人気を博しています。
家庭用ゲーム機やスマートフォンなど、初期費用が高額になるPC以外のプラットフォーム展開によって、以前にもまして若年層のユーザーが増えたことは間違いないでしょう。
若いプロ選手の台頭と、早すぎる引退時期。
若年層が多いというのは一般のユーザーだけでなく、プロゲーマーにも当てはまります。
Twitterでは57.6万人ものフォロワーを誇り、日本トップのeスポーツチームであるCrazy Raccoonに所属する選手、ストリーマーは全員が30歳以下という若年層で構成されており、選手全16名の内9名が20歳以下となっています。
参考:「Crazy Raccoon公式サイト」
つい先日、時価総額約4億ドル(日本円で約520億円)で世界トップeスポーツチームである『TSM』に異例の加入となった日本人Apex LegendsプレイヤーのCrylix氏は、現在16歳という若さを誇ります。
世界でも有数のプロチームがまだまだeスポーツ発展途上である日本の若いプレイヤーをスカウトしたことから、若いプレイヤーに寄せる期待が伺えますし、そのチャンスを自らも掴もうとチームを発足させる企業も近年増加傾向にあるのです。
若いeスポーツプレイヤーも、応援する視聴者も増加傾向にあり業界の勢いもある現状ですが、問題視されている部分も多くあります。
その一つが、人間は歳を重ねるごとにゲームにおいてとても大切な反射神経が衰えてしまうということ。
そのため10代でプロになっても、20代半ばで引退してしまうというプレイヤーも少なくはありません。
ではそのような業界に、なぜマタギスナイパーズのようなシニアチームが発足したのでしょうか。
高齢者がeスポーツに取り組むことによるeスポーツ業界への影響。
秋田県で誕生したマタギスナイパーズの公式サイトによると、「日本で一番高齢化が進む秋田県から、日本初のeスポーツのシニアプロチームが生まれることにこそ大きな意味があると考えています。」と述べられています。
引用:「マタギスナイパーズ公式サイト」
公式Twitterから彼らの日々の活動の様子を見ることが出来ますが、フォートナイトやApex Legendsを始めとしたFPSをメインタイトルとして扱っています。
どちらのゲームも若ければ若いほど有利であると言われており、フォートナイトでは2021年11月21日に行われた公式大会で優勝したGameWith所属のあるべど、どきん、ぶゅりる選手は皆高校生にあたる年齢です。
参考:「GameWith eSports Fortnite部門所属の3選手が「FNCS Grand Royale」総合優勝」
そんな競技シーンにおいて、60,70代のマタギスナイパーズが10,20代の大会上位者に挑むことはとても難しいことではないかと考えますが、実は年齢により反射神経が衰えるという正式な論文や資料はありません。
実際問題、長い間プロゲーマーの平均選手寿命は25歳が限界だと言われていましたが、その真相は反射神経の衰えにより勝てなくなったというよりも、生活が出来なかったり仕事との両立や就職という過程で引退する事が原因だと言われることの方が多いのです。
現在もプロシーンの第一線で活躍しているZETA DIVISION VALORANT部門所属のLaz選手は、4年前の取材で仕事との関係で辞めていく選手がほとんどだと話しています。
参考:「週刊アスモノ「eスポーツ選手の生活とは? ゲーミングハウス潜入」 日本のトップチーム SCARZ(ジサトラアキラ・せきぐちあいみ) [モーニングCROSS]」
同取材で年齢を重ねるごとにパフォーマンスが落ちていく選手や目の力が衰えると反射神経が必要なゲームは難しいという話もありますが、現に彼らは20代後半を迎える今も若い選手に負けず劣らずの成績を残し続けています。
ではなぜ若い選手が若ければ若いほど有利だと考えてしまうのかと言えば、「前例がないから」ということが最も正しい意見であるように思えます。
もっとも、ゲームという存在が知れ渡ったファミコンの誕生から僅か38年しか経っておらず、多くのシニア世代にとってはeスポーツはおろかゲーム自体が馴染みのないものでしょう。
先ほど紹介したバトルロワイヤルジャンルのゲームも、20~30代の人たちからも親しまれているものではありますが、競技活動に打ち込める時間が比較的多いのは学生である10代なので、同じ時間プレイに取り組んだ場合のパフォーマンスの違いは正確に判断することはできません。
「若い方がゲームにおいて有利」という考え方は、現状をしっかり把握すればただの妄想だということに気付くでしょう。
もちろんあらゆる事象や前例から、多くの面で高齢者より若い人たちの方が有利だと考えることは出来ますが、eスポーツは歴史が浅くまだその比較対象が存在していないのが実際のところです。
そんな「比較対象」になり得るマタギスナイパーズには、大いに意味があるのではないかと私は考えます。
私がマタギスナイパーズに期待すること。
日本でシニアeスポーツチームが誕生したことにより、既に業界では大きなインパクトを残しています。
マタギスナイパーズはメディア発信に力を入れており、彼らを知った60~70代の人たちは孫世代とゲームを一緒にするきっかけになったかもしれないし、新たなプレイヤー層獲得の重要なカギを握っています。
しかし、私はそれ以上にシニアチームには「勝つこと」を意識してeスポーツに取り組んでもらいたいと考えています。
私は彼らに、「若くなければゲームの世界では勝てない」という偏見を払拭してほしいのです。
先ほども話したように、日本ではゲームでは若い方が有利であると考えているプレイヤーが多く、学校や仕事を捨ててまでゲームに情熱を注ぐ若者が多くいます。
若い方が有利というにはただでさえ正確な根拠もないうえ、向上心を持ってゲームをプレイしているだけでゲーム依存症を心配されてしまうような時代において、若い頃の貴重な時間をゲームだけに注いでしまうのはやはり高いリスクがあると言わざるを得ません。
もし仮に年齢によるパフォーマンスの低下が事実でないとするのであれば、学業との両立を計り、ある程度のキャリアを備えた状態で人生の岐路に立ち、プロゲーマーになるかどうかを選ぶことが出来るようになるはずです。
本気でマタギスナイパーズが練習に取り組み、若者チームと戦うことで、仮に負けたとしても試合の結果や内容次第では多くのゲーマーの意識が変わるかもしれません。
若いゲーマーが多い今だからこそ、シニアチームにしか変えられないeスポーツ業界の現状と課題があります。
コロナ禍で家にいる時間が増えた今、多くの人がeスポーツに関心を抱いており、それと同時にプロゲーマーという生き方も徐々に認められつつあると思います。
しかしながら、そんなゲーマーの選択肢はまだまだ足りません。
高齢者が本気でゲームに取り組むことには、eスポーツ業界を更に発展させる可能性が秘められているのです。
【執筆者】
よろず
eスポーツに関するコラムをnoteにて執筆中。noteのフォロワー数は6800人以上、累計150000PVの実績をもつ。
https://note.com/yoro2u
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