編集部コラム

『スト6』のクラシック・モダン論争【編集部コラム】

ゲーマーゲーマー編集部の小河原です。

今回は、格闘ゲーム『ストリートファイター6』(スト6)のコミュニティ内で何度も話題になる「クラシック・モダン論争」についてのお話です。賛否両論のかなりデリケートな話題であまり踏み込んで扱うメディアはないのですが、ちょっと踏み込んで書いてみたいと思います。

初心者にも優しい『スト6』

2023年6月に発売された『スト6』は、プロゲーマーやストリーマー、Vtuber等多くの人がプレイし、定期的に大規模なイベントも開催され高い人気を誇っています。

今の盛り上がりに反して、過去には「格闘ゲームは流行らない」とずっと言われてきたのを皆さんはご存知でしょうか?1対1で負けを他人のせいにできずストレスが大きい、反復練習が必要、複雑で迅速な操作が要求される、過去作からのプレイヤーが強すぎる等、理由を挙げれば枚挙にいとまがありません。

しかし、『スト6』の販売の勢いは過去作を超えていますし、SNSを見れば新規のプレイヤーが多く見られ、近年の格闘ゲームの中では群を抜いた盛り上がりを見せています。これは新操作方法「モダン」の功績が大きいといわれています。

格闘ゲームでは、コマンド入力をすることで必殺技を繰り出すことができます。たとえば、昇竜拳という必殺技は【方向キーを右、下、右下と素早く入力して、最後の右下と同時にパンチボタンを押す】というのが必要なコマンドです。このような必殺技が1キャラクターにつき3~6個ほどあり、まずはこれらを覚えて自由に出せるようになるだけでも初心者にとっては大変です。

モダンではこの昇竜拳を【右+SPボタン】で出せるようになりました。その他の必殺技も【方向キー+SPボタン】だけですべて出せるようになり、複雑なコマンドを覚える必要も、素早く正確に入力できるように練習する必要もなくなったのです。さらに、モダンではコンボ(連続技)もボタンの連打で出せるようになり、地味な反復練習をしなくても格闘ゲームの駆け引きや面白さを味わうことができるようになりました。

過去の格闘ゲームにも似たようなシステムはあったのですが、どうしても初心者"救済"というイメージが強いものばかりで、一定のレベルまでいくと通用しなくなるものがほとんどでした。それと比べると『スト6』のモダンは、初心者がモダンで始めてそのまま上を目指せるくらい実戦に耐え得るものとなっています。プロゲーマーや上級者にもモダン使用者がいることからも、その実用性がうかがえるのではないでしょうか。

モダンは悪なのか

ここまでの話だと、モダンは格闘ゲームの敷居を下げ人口を増加させて……と良いことばかりなのですが、実はプレイヤーの中にはモダンを嫌う人も存在しています。ゲームバランスを崩壊させる要因として悪者のように扱う人もいるほどです。

クラシックでは必殺技が出るまでにコマンド入力の時間が必要になるのに対して、モダンではそれがなく一瞬で出すことができます。そのため、モダンでは相手の行動を見てから対応して動く「待ち戦法」がしやすく、強力です。モダンアンチの人の多くはこの待ち戦法がつまらないと感じているようです。

この「つまらない」をさらに読み解いていくと、「強力すぎて競技としてつまらない」と「自分の行動を制限されるため娯楽としてつまらない」の2つに分かれているように感じます。格闘ゲームは広義にはアクションゲームであり、行動を制限されると娯楽として面白くないというのは至極全うな意見です。しかし、競技としてつまらないという意見に関しては私は懐疑的です。

格闘ゲームでは、何か行動を起こすときには必ず隙が生じます。先に動くことにはリスクが伴い、安定して勝つためには後から動いて対応することが必要です。そのため、上級者の対戦を見ていると攻めの機会をうかがったり、相手の行動を誘ったりするために、うろうろ前後に移動したり、攻撃をわざと空振りしたりしながら待つのをよく見かけます。その度合いは異なるかもしれませんが、待ち戦法は上級者でも取り入れているものなのです。待ち戦法の攻略は、相手の操作方法に関係なくいずれは突破しなければならない課題といえるのではないでしょうか。

「待ち戦法の対策を初心者に求めるのは酷だ。初心者が離れてしまうのでは?」とも一見思えますが、モダン操作は初心者の獲得に貢献しています。また、「初心者向けシステムを上級者が活用(悪用)すると強すぎて、結果初心者が駆逐されてしまう」という意見もありそうですが、上級者にはクラシック使用者が多く、決して強力すぎるということはないのかと思います。そう考えると、モダンを感情的に面白くないと感じることはいたしかたないとしても、"ゲームバランスを壊す悪"のように決めつけるのは難しいのかと思います。

ぶっちゃけますと、私はモダンとの対戦を娯楽としてつまらないと感じることがあります。しかし、『スト6』をプレイしていて楽しい時間の方が圧倒的に多いのでずっと続けています。また、モダンとの対戦は競技としてつまらない訳ではないので、突破するべき課題として捉えることでより楽しめるようになりました。モダンアンチの方も一度「なぜモダンが嫌いなのか」を考えてみると、ゲームとの向き合い方が少し変わってくるかもしれません。

発売から今日まで幾度となく語られてきたクラシック・モダン論争。「初心者が増えたから良い」のようにゲーム全体の盛り上がりを見て肯定的な意見を言う人もいれば、上記のように別の観点から良くない、つまらないという人もいます。結論が出るような議論ではないかとは思いますが、論じるならば観点をどこに置いているのかをはっきりさせてから話し合う必要があるのかと思います。

……格闘ゲームの話を書くと長くなってしまいがちですね。もっと語りたいですが今回はここまでです。長文失礼いたしました。

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