独占取材

ナゲ選手はファウストが弱いときどう向き合った?~1人のキャラに拘るということ~|

「格ゲーがもっと盛り上がってほしい!」ということで、今回は『ギルティギア』シリーズで長年ファウスト使いのトップとして知られるナゲ選手に取材してみました。

トリッキーなファウストを使い続ける"職人"なイメージのナゲ選手ですが、一つのキャラクターを使い続けるということはある意味ではキャラと心中するようなもので……。

最後にはときに「アークに賄賂を払っている」とネタにされるメテオについても聞いてみましたよ。

ナゲ選手とは

ナゲ選手は、JMS Impact Gaming所属のプロゲーマーです。

10年以上格闘ゲーム『ギルティギア』シリーズでトップの”ファウスト”使いとして活躍し、EVO Japan 2018での優勝を筆頭に多くの大会で上位入賞を果たしています。

ファウストとピンクへのこだわり

――ナゲ選手といえば、『ギルティギア』のピンク色のファウスト使いというイメージを抱いている人が多いと思います。そもそもの格闘ゲームや『ギルティギア』との出会い、やり込み始めたきっかけなど、ナゲ選手の格ゲー歴について教えてください。

「今回はインタビューの機会をいただきありがとうございます。よろしくお願いします!

私は出身が愛知県の名古屋市で、地元のゲームセンターで色々なゲームを遊んでいました。『ギルティギア』はゲームセンターで遊んだゲームの一つだったんですが、ファウストの見た目に惹かれて遊び始めました。たぶん20年近く前の話ですね(笑)。」

――格闘ゲームは元々プレイしていたのでしょうか?

「格闘ゲーム自体は少し遊んでて、コマンド入力が出来て簡単なコンボが少しできるぐらいでした。で、ゲーセン仲間に『ファウストおもしろそうだよね~』って言ったら『ファウストは特殊なキャラだからお前じゃ絶対使えないよ(笑)』って軽く一蹴されたんです。それで『ふぅん…』ってめちゃくちゃムキになって色々調べて、出来ることを増やしてやろうと思ったのがきっかけですね。」

――やり込みは反骨精神から生まれたんですね。

「今だと信じられないかもしれませんが、当時はインターネットがそこまで普及していなかったので、動画を見る環境が家にありませんでした。友人に頼んで色々な大会や野試合の動画ファイルが詰まったCD-ROMを貰って、必死になって見ていました(笑)。

あとは、当時中学生か高校生ぐらいだったと思うのですが、通ってたゲームセンターでゲーム雑誌の『アルカディア』(※)が20冊くらい廃品回収されそうになってるのを見て、店員さんにお願いして貰って帰ったりしていました。そこで攻略記事を何回も読んでお勉強していましたね。ページ下の補足のところに結構大事なこと書いてあったりしたんですよね……(シミジミ)。」

(※)『月刊アルカディア』は、かつて発行されていたアーケードゲーム専門雑誌。それより以前にあった『ゲーメスト』の後継誌的な立ち位置の雑誌で、格闘ゲームを中心にアーケードゲームの攻略、大会情報、トッププレイヤーのコラム、ハイスコア情報などが掲載されていました。2015年に定期刊行が終了し、現在では事実上の廃刊となっています。

ナゲ選手はテレビ番組『月曜から夜ふかし』に出演し、今でもそのネタが擦られ続けています(画像はナゲ選手自作の2024年版)。

――ファウストの特徴の一つに、ランダム性のあるアイテムを出す必殺技“何が出るかな?”があります。そのほかにもトリッキーな動きが多いキャラクターですが、なぜファウストを選んだのでしょうか?

「一つ目の質問に関連しますが、完全に””見た目””一択です。元々、覆面キャラのようなイロモノキャラがかなり好きなんですよ。格闘ゲームじゃなくても、映画だとジム・キャリーの『MASK』とかディズニー映画の『アラジン』のジーニーとかが好きなキャラなので、なんとなく『あぁ…』って分かってもらえるかと思います(笑)。

見た目から入って、加えてランダム要素があるってのも気に入って遊んでました。練習を始めたときも、強くなろうというよりも『変わったコンボや動きができるようにしよう』という考えでした。とにかく自由に動かせるようにしたいと思い始めて、CPU戦で色々練習していました。」

――ピンク色のファウストを使い、さらにご自身もピンク色のTシャツを着て大会に出たりしています。ピンクにこだわる理由を教えてください。

「特定の色を基調にしたカラー構成が元々好きで、最初は真っ黒だったり真っ黄色だったりするファウストを好んで使っていました。その内、シリーズが『GGXXAC』に変わり、ピンク色のカラーが追加されたんですね。『誰も使わなさそうなネタっぽいカラーだし、これにしよ!』と決めてからずっとそのままです。用意されてるカラーにも恵まれて、そこからシリーズ通してピンクカラーを使い続けるようになりました。」

――ご自身もピンク色の服を着ていますよね。

「ピンク色のTシャツを着るようになったきっかけは……忘れちゃいましたね……。大会のちょっとしたゲン担ぎのような意図で着ていたと思います。あと友人達から『ピンクのTシャツが妙に似合っててオモロい』と言われたのもあってずっと着てますね。

そういうのを経て、気づいたら自分の中でめちゃくちゃ好きな色になってました。濃いめのショッキングピンクが好きです。」

――ゲームがリアルにも影響を与えたというのは面白いです!

「ただ、恐ろしいんですけど、自分の好みのカラーが決まると、小物とか選ぶときとか『とりあえずピンクでいいか』みたいなチョイスになるんですよね。2015年にEVOへ初めていくとき、海外旅行用のグッズ買っていたら、アイマスク・タオル・ネックピロー・パスポート入れなんかが、ほとんどピンク一色になっていました。

それからは他の色の服や小物を買うようになったんですけど、オフでお会いした方から『思ったよりピンクじゃないですね』『ピンクの服を着てないから誰か分からなかったです』とも言われるようになりました。詰んでます。」

韓国での大会での写真。ファウストを見つけてオペのポーズ。

――ゲームが現実に影響を与えたんですね。では、今更かもしれませんが、お名前の由来について教えてください。

「ゲームセンターの大会とかに出るために名前を考えたんですが、2~3文字で且つ外で呼ばれても問題無さそうな名前にしようと思ったのがきっかけです。で、当時"空中投げ"ってシステムがめちゃくちゃ好きだったんです。『ストリートファイター』のガイル・春麗・バルログなんかの空中投げが好きで、『ギルティ』でもずっと空中投げで対空してました。『じゃあもうそこから取ってナゲでいいか、こういうのはシンプルなほうがいいだろ』ってなって、気づいたら定着しました。」

――まさか空中投げが由来とは……渋いですね。

「たまに勘違いされるんですがアイテム投げの"ナゲ"じゃないんです。あと、最近EVO 2024で活躍されてたはやおさんのヒューゴー(※)の大ファンでして『相手をポンポン投げるのかっこいいな~』みたいな想いも、名前を決める最後の一押しになってたと思います。」

(※)はやお選手は、『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』のヒューゴーのトッププレイヤーとして知られるプロゲーマー。EVO 2024では弱キャラと言われるヒューゴーで4位と大健闘し、身体能力を活かしたゲーム外でのパフォーマンスも話題になりました。

自キャラが弱いとき、どうする?

――最新作の『ギルティギアストライブ』(GGST)では、発売当初はファウストは最弱キャラの一角と見られていました。今だからこそ言えることもあると思うのですが、当時はどんな気持ちでファウストを使用していたのでしょうか?

「まぁ~~~……まず勝率は前作に比べてガクッと下がりましたね(笑)。友人と対戦した後の感想で『ファウストがあんまりいなくて対策していないけど結構勝てました』みたいなことはしょっちゅう言われてました。

少なくとも競技シーンに出るのはしばらく先だなと思いながら遊んでました。正直調整待ちしていたのもあります。新シリーズ且つファウストという特殊キャラで調整時間かかるだろうなーという気持ちもあったので、1~2年ぐらいは待つつもりでしたよ。幸いなことに『GGST』のファウストにはかなり新要素が詰まってて、キャラクターに魅力を感じていたのはモチベになっていましたね。あとは最初期のバージョンでずっと天上階で遊んでるファウスト使いの方々がいたので、僕も追いつかねば……と思いながら遊べていたのもあります。」

――少し踏み込んだ質問となりますが……、一つのキャラを使い続けていると自キャラが弱いという事態に直面することも出てくると思います。そういうときでも大会には優勝するつもりで出場されるのでしょうか?

「はい、今回は完全に直面してましたね(笑)。ただ、まずそもそもなんですけど、キャラクターの強い・弱いに関わらず、『優勝するつもりで大会に出場する』ということが普段からあまり無いです。これは過去作からずっとそうです。大会は水物だと思ってるので、日々精進して結果的に優勝できるチャンスや、練習した成果を見せる機会に恵まれたらいいな……くらいのスタンスです。

それでもシーズン1開始直後に大会はほぼ出ませんでしたね~。周りのキャラクターやプレイヤーとの差を直視してもモチベーションを減らすだけだと思ったので。結果を出すことよりも自分が継続することを優先した結果、"大会にあまり出ない"を選択しました。」

――トッププレイヤーが大会に出ないことを選ぶのは中々意外です。

「もう少しお話させてもらうと、自分は真剣に取り組みすぎると空回りするんですね(笑)。元々『優勝かそれ以外しか無い』みたいな考え方をかなりする方で、取り組みに対する思想が強かったんですけど、それに沿って行動しても逆効果だったんですよね。考え方が上手くハマらず、1年以上嫌な気持ちのまま対戦していた頃もあります。それなので、なるべくニュートラルでいようと思って今のスタンスになってます。それもあって大会に出ないって選択は意外とスルッと選べましたね。」

――著書『ナゲノート』(※)では、心が折れていた時期にはキャラ変えを検討したことがあると書かれています。それ以降にキャラ変えを検討したことはないのでしょうか?

「『GGST』でキャラ変えを検討したことはありますよ。それこそシーズン1の当初ですね。ただ、『使用キャラクターを変えて遊ぶ』『使用キャラクターを変えないで遊ぶ』『やめる』の三択だなと思ったんですね。自分は正直かなり飽き性なので、使用キャラクターを変えてまで『GGST』を遊んでる未来が見えなかったんです。娯楽は世の中に山ほどありますし、"ファウスト"という拘りを緩めたときに、じゃあ僕が『ギルティギア』のシリーズに拘る必要はもう無いんじゃないかな、って。なので、結局そのままファウストで遊んでいました。ファウストで遊び続けて、続かないなと思ったらスパッとやめるつもりでしたね(笑)。

あとは周りの友人・知人にも恵まれてました。自分のスタンスにあれこれ言う人は、近くに誰もいなくて、ガチでゼロだったんです。みんな気長に待ってくれてたから遊べてましたね。」

(※)『ナゲノート』は、ナゲ選手が格闘ゲームの上達の仕方、モチベーションの保ち方、アドバイスの是非などについて著した同人誌。現在はナゲ選手のブログで全編無料公開されています(https://nage.hatenablog.com/entry/2020/04/03/224355)。後日noteでも公開予定。

――『ギルティギア』は『GGST』で大きくゲームの根幹が変わったと思います。旧シリーズにあったフォースロマンキャンセルのような猶予の短いテクニックがなくなったほか、ガトリングルートの簡易化、コンボの易化などプレイのハードルが低くなった部分が多いです。また、空中ダッシュ時に予備動作が入る、空中受け身の撤廃など、過去作よりも少しゲームスピードが遅くなった印象もあり、発売時には受け容れられないファンも少なからずいました。

本作を未プレイの過去作ファンに向けて『GGST』の魅力を今一度語っていただきたいです!

「推しキャラがいるなら、動きめっちゃ良くてキャラソン付いてるので始めるの爆アドですよ…というのをまず最初に書いておきます。演出やばいです。顔 is ベリーグッドです。

……すみません、ゲームの内容の話もします。

『GGST』は、過去作に比べてかなりとっつきやすくなったのは事実ですけど、難しい要素も全然あります。ファウスト使いの僕としては、対戦してても、『Xrd』シリーズに比べて簡単になってないよな、むしろ展開は速くなってないかな、って思っています(笑)。バーストゲージやロマンキャンセルの運用をどうするかはありますし、壁割り(ウォールブレイク)が絡むとコンボ判断の微調整が必要になります。倒し切りのコンボ選択でも、相手を壁に貼り付けるとバーストゲージ回収されるのでなるべく壁が割れないようなコンボ判断を選択したりとか……。

とりあえず色んなキャラ触ってみるか~ってときに、最初からそれっぽく使えるようにするまでの時間はかなり圧縮されました。ただ、使いこなせてきたかなという先は、結局今までのシリーズに似た判断を求められてる気はします。過去作に戻って遊ぶことが無いのでちゃんと比較できてるかは怪しいですけど……(笑)。

とにかく、複雑な状況からより良い回答を選択する面白さや魅力はあると思ってますね。最初『めちゃくちゃ攻められる!!!オモシレ~!!!(キャッキャッ』ってなって、気づいたら色んなこと考えだして、対戦にどっぷりハマっちゃうって魅力はあるんじゃないかなと思います。」

――近年格闘ゲームが再び注目されていると思います。これから格闘ゲームを始める人に向けてアドバイス、『GGST』のオススメポイントについて教えてください。

「壁、割れるようにしていきましょう。

対戦でコンボを繋いでウォールブレイクをするって、目標にしやすいんじゃないかなって思いました。壁が割れると『ストライヴしてるわ~』って気持ちになれます(笑)。

あとは、やっぱり動きがかっこいい・かわいいのはデカいですよね。好きなキャラを好きなように動かせるようにしたいってモチベはとんでもなく大事だと思います。私がファウスト使ってる理由でもありますし。ただ、気づいたら20年経つときもあるんでそこは注意してください。」

10年くらい前の写真とのこと。左がナゲ選手ですが、しっかりピンクでファウストです。

――20年、重みのある言葉です……!『GGST』はときにワンコンボで体力の8割近いダメージになることもあり、プレイしていない人からは一見逆転性の高い大味なゲームに見えてしまうこともあると思います。しかし、実際には実力差があるとワンチャンスすら生まれない奥深さがあるようにも感じられます。

ナゲ選手が思う『GGST』の奥深さについて教えてください。

「うう~~~~~~ん、ここは表現するのが難しいですね。まず大味な部分はあります。どんな猛者だろうがこのパターンに入ったら負け得る、という状況はあり、正直カバーしきるのは無理だと思ってます。

”安定しにくくなったこと”に対して(実力差があっても)勝ちやすくなった・簡単になったと言えばそうですし、安定させるための選択が難しくなった、ケアしきれなくなったと言えばそうですし……言語化が難しいですね……。

『GGST』も気づけば長いですし、強いプレイヤーの危機察知能力が上がってるのはあると思います。『ここでこれ通すと大変なことになるな』『ここは大人しくしておいたほうがいいな』みたいな知識や経験則が詰まってきてるんじゃないかな。あとは直前ガード関係も慣れてきてる印象があります。

最近の大会だと”3試合先取”という形式で実力差、経験差を出やすくしてる要素もあるかなと思います。一応言っておきますけど、別にそれがダメとは全然思ってないです(笑)。」

――やりたいこと、目標など、今後の活動について教えてください。

「今まさに意識し始めてる目標は『ちょっと”前ステ”する』です。

分かりにくいんですけど、オフイベントで自分から挨拶するようにしたり、イベントの手伝いをするようにしたり、自分の考えを発信するようにしたり……みたいなあれこれです。大会で良い結果を出したい気持ちもありますし、前ステしすぎると疲れてしまうのであくまでちょっとだけ……(笑)。例えば、今回のインタビューでも『今までなら言わなかっただろうな…』みたいな部分もお話したりしてます。」

――バランス調整の話のようなデリケートな部分もお話いただけていて、非常に興味深く聞かせていただいています!

「詳細は割愛しますが、少し前に知り合いから自分の取り組みに対して結構厳しい意見を貰って、活動の仕方を考え直す機会があったんです。で、『兼業とはいえプロゲーマーって肩書あるなら、どういう活動するのが良いのかな~……』と考えて、さらに色々考えた結果、今は”ちょっと前ステ”するようになりました。

自分は好きに遊んでいたら今の状況になったんで、今の自分をそのまま知ってもらう機会を更に発信していくのが、結果的に一番良い方向に転ぶんじゃないかな?……と思って試し試しで取り組んでいます(笑)。」

――最後に、メテオを出すために日頃から行っていることを教えてください!

「いやぁ……日頃から何もしてないんで全然メテオ出ないんですよね……。

この話が真実はどうかは、僕のTwitchチャンネルを視聴したり、大会観戦してもらえればわかると思います。ありがとうございました(^-^)/」

今だからこそ尚光るキャラ職人

プロゲーマーという職業が確立し、強さや人気、結果がより求められるようになった昨今、プロアマを問わず強いキャラを探し勝ちに貪欲になるプレイヤーも増えた印象があります。そんな今だからこそ、ナゲ選手のようなキャラクターへの愛とこだわりに満ちたプレイヤーはより輝いて魅力的に見えるのだと思います。

ぜひナゲ選手の配信を見て、メテオの出現率を確かめてみてください!確かみてみろ!

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(※本取材はテキストベースにて行いましたが、一部読みやすいように会話風に再構成しています)

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