7月29日、一般財団法人eスポーツ・兵庫伝統工芸振興財団の発足と活動内容が発表されました。
発表内容によると、この団体はゲームの対戦会イベントの開催したい人に、資金面を含むサポートを無償で行ってくれるとのこと。
え!?そんな夢のような話があっていいの?何か悪いことを企んでいるのでは!? ということで、今回は突如現れたeスポーツ・兵庫伝統工芸振興財団の理事を務める工藤貴之さんにインタビューを行いました。
活動の目的や理由、そして実際にサポートを受けるために必要なことなど色々聞いちゃいましたよ。
一般財団法人eスポーツ・兵庫伝統工芸振興財団とは
兵庫県内においてe スポーツと伝統工芸の 2 つの事業を行う団体。古い文化と新しい文化を守り・発展させていくことを目的としている。
eスポーツ事業に関しては、イベント開催における会場費用、スタッフ等人件費、機材およびソフトウェアの貸し出しをサポートし、イベントの質と量を向上することを目指して助成を行う。
理事を務める 工藤 貴之さん
一般財団法人eスポーツ・兵庫伝統工芸振興財団 理事。そのほかプロゲーミングチームを有するグローバルセンス株式会社と株式会社GEEKSの二社で代表取締役を務める。
GEEKS PRO GAMINGではプロゲーマーキャリア制度を設け、グローバルセンス内にあるチームPro Gamers World(PGW)では専業プロゲーマー3名による活動を行っている。ゲーム文化やゲーマーに関しても造詣が深い。
日本が誇るオフライン対戦の文化を守る!
――本日はよろしくお願いします!早速ですが、一般財団法人eスポーツ・兵庫伝統工芸振興財団(以下、兵庫振興財団)とは一体どのような団体なのでしょうか?
工藤さん「僕は理事として主にeスポーツについて担当しているので、そちらを中心にお話させてもらいますね。兵庫振興財団では伝統工芸分野の他、eスポーツの文化振興を目的に活動しています。」
――最近ではオンライン対戦が主流となり、オフラインで対戦する機会は減っていますね。
工藤さん「新しい文化はどんどん作られていくものですが、かといって古い文化を捨ててしまって良いというものではないですよね。しかし、文化の土台作りの部分というのはどのようにビジネスに繋がるか分からないため、一般の企業はやりたがらないんですよ。」
――ゲームンセンターの減少や、コロナ禍による対戦会の減少でオフライン対戦の文化は確かに下火になりつつあります。オフライン対戦の文化を守るのには何か理由があるのでしょうか?
工藤さん「ゲームセンターやオフライン対戦会というのは、日本が誇れる文化だからです。プレイヤー同士が交流して切磋琢磨して強くなる、憧れのプレイヤーとコミュニケーションを取ってモチベーションが上がる、時には先輩プレイヤーから注意されたりしてマナーを学ぶなど、オフライン対戦にはそこでしか生まれないものがたくさんあります。だからこそオフラインという環境も非常に大事だと考えています。」
――オフラインだからこその良さですね。
工藤さん「隣に対戦相手がいるからこそ生まれる交流と相手への配慮というのは、競技者が失ってはならないものだと思います。たとえばオフライン対戦なら、たとえ自分が不利になっても最後までやり切りますよね。」
――確かにそれが対戦相手への敬意や配慮だったりしますね。
工藤さん「しかし、ネット対戦では放置したり切断したりする人が少なからずいます。キャラクターの向こうに人間がいるということが体感できないと、モラルは下がってしまうんですよ。だからオフライン対戦の文化は今後も残していくべきだと考えていますね。」
用意するものなしでイベント開催が可能!?
――では、具体的には兵庫振興財団はどのようなことをしているのでしょうか?
工藤さん「ざっくり言うとオフライン対戦会のサポートを行っています。対戦会を開きたい人に、ゲーム機やPC、ソフトの貸し出しなど物的な面のほか、会場費や人件費などの金銭面の援助を行います。」
――オフライン対戦会に必要なものを一通り提供するということですね。それでは逆に主催者が用意しなくてはならないものを教えてください。
工藤さん「参加者の名札や参加者リストなど細かいものは用意していただく必要があります。また、会場や当日のスタッフの手配ついても基本的には主催者の方にお願いをしています。」
――それだけで対戦会を開けてしまうというのはかなり手軽ですね!
工藤さん「加えて、会場に関しては提携している場所(esports stage EVOLVE 六甲道店)をご案内することもできますし、スタッフについてもご相談いただければこちらで手配することもできます。兵庫振興財団としては物的負担・金銭的負担をするから、プレイヤーの皆さんからはアイデアと行動力をくださいという感じです。」
提携するesports stage EVOLVE 六甲道店さん(http://evolve.jp/)。
申し込みも簡単!下げに下げた手続きのハードル
――実際にイベントを主催したいという場合は、どのようなことが必要になるのでしょうか?
工藤さん「メールで申請書と企画書の提出をお願いしています。どちらもフォーマットを用意してあるので、必要事項を記入していただいて送ってもらうだけでOKです。」
――凄くシンプルですが、本当にそれだけなのでしょうか?
工藤さん「はい、物販などの営利目的になることに対してはサポートすることはできませんが、基本的にはイベントそのものを一方的にNGにしたりはしません。イベントを実現できるように相談して申請が通るようにしていきます。」
――申請が通った後はどうなるのでしょうか?
工藤さん「申請書や企画書をもとに、暫定助成金予定額をメールにてお知らせします。イベント終了後には報告書、請求書を提出してもらいます。これもフォーマットを用意しているので、入力するだけでOKです。加えて、領収書を送付してもらい兵庫振興財団の方で精査します。」
必要な書類フォーマットは公式サイトよりダウンロードできます。(https://www.etf.or.jp/jyosei/)
――フォーマットが用意されているということで、これなら初めてでもイベントを主催できそうです。
工藤さん「主催するためのハードルを下げるためにはかなり気を付けました。実は、これは僕の会社の経営者としての経験や悩みを活かしたものでもあります。何か手続きをしたいのに、そもそも手続きが複雑すぎる。そして相談を受けてもらえないとか、先に言っておいてほしかったというようなことを後から言われたりとか、そういう経験をたくさんしてきました。この経験から財団の助成金を活用いただくためにも、できる限りシンプルにすることを心がけました。」
――参加者などのノルマがあるのかが気になります。
工藤さん「ノルマはありません。開催することに意義があると思っているので、たとえ参加者が少なかったとしても気にしてもらうことはないですよ。」
兵庫県は神戸市のほか、姫路市、尼崎市など大きな都市が複数存在。大阪など隣接県からもアクセスしやすんですよ!
『3rd』『パワレン』『恋姫演武』何でもウェルカム!
ここで情報をまとめて紹介!
申し込み、手続き
・公式サイトにある申請書、企画書に記入してメール送付
・審査後問題なければ暫定助成金予定額の通知あり
・イベント後には報告書、請求書、領収書をメール送付
申し込み時期
・1ヶ月前までが望ましい
(ただし、8月~9月分に関しては兵庫振興財団さんが頑張って対応するとのこと!)
場所
・兵庫県内ならどこでもOK
・提携会場も案内可能(esports stage EVOLVE 六甲道店さん)
※本体やソフトウェアの無償貸出はEVOLVE六甲道店さんだけの特典(機器類を預かって頂いているため)
イベントスタッフ
・基本的には主催者が集める
(ただし、見つからない場合は兵庫振興財団から紹介することも可能)
取り扱いタイトル
・PS4やPCで動作する格闘ゲーム、またはスマブラであればOK
・複数タイトルでの合同開催も可能
・ゲームソフトは財団で保有。保有していないものは相談の上財団で購入対応
・マニアックなタイトルでもOK(むしろ歓迎!)
・18禁等いわゆるアダルト系はNG
ゲーム機、PC
・PS4は2023年以降貸出対応予定
・PCは提携会場に20台ほど完備(8台分のアカウントまでソフトウェアの貸出が可能)
コントローラー
・マウス、キーボードは提携施設のものを利用可能
・パッドやアーケードコントローラーは個々人で持ち込みが必要
助成金について
・最大額は合計25万円(1開催あたり)
・助成金支給は月1イベントまで(2023/07末まで)
※開催実績に応じて2023/08からの助成金予算を決定します
・主催者への手当/イベントスタッフへの日当を助成金に含むことが可能
・会場代、お弁当代、備品類の費用をサポート(消毒液など)
・プロゲーマーの招待も助成の対象
※事前に財団にご相談ください
――マニアックなタイトルでも対戦会を開催できるというのがかなり特徴的に感じます。
工藤さん「ゲームは単に新しいという理由だけでプレイされ続けることはありませんよね。長い間プレイされているものは面白いからずっと続いているんです。だからイベント開催タイトルに制限は特に設けていません。」
――ちなみに、工藤さん自身は思い入れのあるタイトルなどはあるのでしょうか?
工藤さん「個人的には『ストリートファイターEX』シリーズには思い入れがあるので、対戦会が開かれることがあれば嬉しいですね。PS1やPS2のタイトルなので現実的ではありませんが(笑)。」
――意外なタイトルが飛び出てきました……(笑)。
工藤さん「『恋姫演武』のヒリヒリした駆け引きも好きなので見たいタイトルですね。そのほか『Power Rangers Battle for the Grid』(パワレン))のような熱烈なファンが一定数いるタイトルなどで、対戦会がその人たちが集まれる場になってほしいと思っています。」
――プロゲーマーの招待をサポートしてもらえる点も面白いですね。
工藤さん「既に関西を拠点とするプロゲーマーには声を掛けさせてもらっています。プロゲーマーにとっては対戦会へのゲスト参加を、タイトルへの貢献、ファンサービス、副収入として捉えてもらえると嬉しいですね。所属しているチームさんは、選手個人が行うコミュニティ活動に関しては寛容でいてもらえると助かります。」
財団法人とは?発足の経緯
――少しゲームから離れた話となりますが、兵庫振興財団さんは「財団法人」という形態を取っています。これは社団法人や株式会社などとはまた異なるのでしょうか?
工藤さん「社団法人は参加企業からの会費によって賄われているのに対し、財団法人は運営資金がすべて寄付金によって賄われます。そのため、特定の個人や企業のためではなく、公益になるような活動をする必要があります。言い換えれば、メリットや誰かの顔を立てることを考えずに公益だけを追求することができるため、文化を守ることができるんです。」
――ゲームが好きな方からの厚意による寄付によって成り立っているということですね。
工藤さん「今回は寄付者の方に地域の活性化、文化の振興に貢献したいという想いがありました。話し合っていくなかでオフライン環境の重要性について意見が一致し、その後コロナ禍以前と以降の実情に関してイベント主催者や関係者の声を集めてみたんです。そうすると『続けたかったが経済的事情で泣く泣くやめた』『オンライン主体になりオフラインイベントには人が来ない不安がある』という声が多く挙がってきました。」
――やりたくてもできない実情が浮かび上がってきたんですね。
工藤さん「そこでまずは少ない予算の中で一人でも多くのゲーマーが楽しめて学べて、モチベーションを高められる環境を支援しようということで今回のような内容となりました。」
――由緒ある伝統文化と最先端のeスポーツの両方の振興というのも特徴的です。
工藤さん「これは寄付者の方たちがどちらもサポートしたいと考えていて、単純に2つに分けるより利便性が高いというのがひとまとめになっている理由です。」
――工藤さんは主にeスポーツ側を担当されているんですよね。
工藤さん「伝統工芸については別の理事が担当していますが、僕も現在勉強しています。その中で、美術品の作家さんというのは実はプロゲーマーと一部境遇が似ているということに気付きました。どちらも凄いものを作っている・凄いことをしているにも関わらずそれで生計を立てることが難しい。こういった人たちがもっと注目されるようにしたいと考えております。これは財団の活動ではなく、僕個人の活動ですが両者の課題解決に向けたコラボレーションも企画しています。」
今後の展開
――今回は兵庫県内でのイベント開催のサポートとのことですが、今後他県に拡大することはあるのでしょうか?
工藤さん「地域の活性化という目的があるため、まずは兵庫県で活動していきます。」
――他県からも人が集まって盛り上がれば”ゲームといえば兵庫”となるかもしれませんね。
工藤さん「加えて、ゆくゆくは複数タイトルでのオープントーナメントを財団主催で行いたいというのが代表理事の想いとしてあります。まずは兵庫振興財団の存在や活動を知って共感してもらい、そういった大きな活動に繋げていきたいと思っています。」
――活動の展望について教えてください。
工藤さん「第一フェーズとして、オフライン対戦会の楽しさを思い出してもらって、主催にも興味を持ってもらいたいと思っています。そして第二フェーズとして、イベント実施を経験した人が、次のイベントのサポートをして不安を解消するという流れを作っていきたいですね。」
――では、最後に工藤さん自身のeスポーツ業界での展望を教えてください。
工藤さん「僕がeスポーツに関わる上での基本方針は、ゲーマーの『嬉しい』『楽しい』『安心』を少しでも増やす事につながる“何か”を企画→実現していくことです。例えばプロゲーマー引退後の就職や仕事そのものを抜本的に変えることは難しいですが、その選択肢を増やしたり、新しい収入源を増やしたり、そんな風に安心を1つ作ったりすることはできます。一つの活動で全てを網羅することはできませんが、それなら色々やればいい、という考え方です。だから、これからも僕自身はゲーマーが安心して働ける会社、プロゲーマーが安心して活動できる環境やセカンドキャリアの選択肢、収入源につながる“何か”を手がけていきます。」
――ゲーム文化はもちろん、それを作っているゲーマーたちも支援していくんですね!
工藤さん「ゲームプレイを見せて楽しませてくれる人たちに、しっかり何かリターンを返したいと思っています。業界に身を投じた一人として、プロゲーマーを目指す人、プロゲーマーとして活動する人たちをしっかり支えていきたいですね。」
――本日はありがとうございました!
一般財団法人eスポーツ・兵庫伝統工芸振興財団で理事を務める工藤さんへのインタビュー、いかがだったでしょうか。
イベント開催タイトルをメジャーなものに限定せず、マニアックなタイトルでの対戦会も可能ということには懐の深さと、ゲームとプレイヤーへの深い理解と敬意を感じられました。また、用意するものや手続きを極力少なくし、門戸を広く開いていることも印象的です。インタビューを通してかなりゲーマーに寄り添った団体、活動だと感じましたので、今後の活動や展開に期待しちゃいます!
自分の好きなゲームをもっと盛り上がりたい、
好きなゲームを通してたくさんの人と交流したい、
熱い大会や対戦会を開催したい、
そんな想いをお持ちの方はぜひイベント開催を検討してみてはいかがでしょうか。
関連リンク
▼一般財団法人eスポーツ・兵庫伝統工芸振興財団 公式サイト
https://www.etf.or.jp
▼工藤さんTwitter(@GsKudo)
https://twitter.com/GsKudo/