コラム 独占取材

文豪格ゲー『Write’n’Fight』識者の”かもいひと”さんにその魅力を聞いてみた

『Write'n'Fight』というゲームをご存知でしょうか。

このゲームはSteamで配信されている格闘ゲームで、操作キャラクターが世界中の有名な文豪であることから通称”文豪格ゲー”とも呼ばれています。

今回は、このゲームの魅力に憑りつかれてしまったプレイヤー”かもいひと”さんに、本作の魅力やヤバいポイントを聞いてみました。

『Write'n'Fight』とは

2022年8月23日にSteamで発売された格闘ゲームです。

小規模開発と思われますが、”文豪”というキャッチーなテーマや画面のシュールさから発売前には多くのメディアに取り上げられ、SNSを中心に話題となりました。

発売時にはSNSにて「起動しない」「バグが多すぎる」という報告が多数ありネタ的な盛り上がりを見せ、現在もアップデートごとにバランス調整や新たなバグや永久パターンが話題になることも。

【文豪格ゲーのここが凄い1】原作厨も安心のキャラクター

本作でまず気になるのが、文豪というテーマ。

文豪といえば漫画やアニメで人気の『文豪ストレイドッグス』を思い出す人も多いかと思いますが、本作に登場する文豪は肖像画や写真でお馴染みの姿のまま登場します。

芥川龍之介vs.ヘミングウェイ。ある意味クロスオーバー的な夢の対決です。

作品が好き、見た目が好き、彼らにまつわるエピソードが好きという原作好きも安心ですね。

あなたの相棒となる文豪は誰?

『Write'n'Fight』に登場する文豪たちを代表作と共に一挙紹介!

あの文豪で闘えるのは本作ならではの魅力です。さあ、あなたのお気に入りの文豪を選びましょう。

芥川龍之介(日本)
『羅生門』『鼻』『地獄変』『藪の中』

曹雪芹(中国)
『紅楼夢』

アレッサンドロ・マンゾーニ(イタリア)
『いいなづけ』(詩集)

チャールズ・ディケンズ(イギリス)
『クリスマスキャロル』

レフ・トルストイ(ロシア)
『戦争と平和』

ジェイムズ・ジョイス(アイルランド)
『フィネガンズ・ウェイク』『ユリシーズ』

アーネスト・ヘミングウェイ(アメリカ)
『誰がために鐘は鳴る』『老人と海』

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(アメリカ)
『クトゥルフの呼び声』『ダンウィッチの怪』『インスマウスの影』(クトゥルフ神話)

アレクサンドル・デュマ(フランス)
『三銃士』『椿姫』

ウィリアム・シェイクスピア(イギリス)
『ロミオとジュリエット』『ハムレット』『リア王』

フョードル・ドストエフスキー(ロシア)
『罪と罰』『白痴』

エーリヒ・マリア・レマルク(ドイツ)
『西部戦線異状なし』

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(フランス)
『星の王子様』

ラテンアメリカオーサー(ラテンアメリカ)
開発者が好きなラテンアメリカ文豪を1人に絞ることができず、6人のラテンアメリカ文豪を合体させたオリジナルキャラクター

かもいひとさんに聞いてみました

――発売時にはそのユニークなデザインから話題になった『Write'n'Fight』ですが、かもいひとさんが本作に興味を持ったきっかけは何なのでしょうか?

「『ギルティギア』のバグ研究で有名なJAKEさん、色々なゲームでトッププレイヤーのへいほぉさんが発売日に買って、あまりのバグりっぷりに苦しんでいたのを見て自分もつい買ってしまいました。

発売直後はあまりにバグりすぎていて、それから半年ほど販売停止になっていました。(バグの内容についてはこちらの動画で説明しています)。この頃は致命的なバグが多すぎて続けてプレイしてくれる方がほとんどいませんでしたね。」

楽しみ方は人それぞれ。eスポーツだけがゲームではないです。

――かもいひとさんは以前芥川龍之介の雪駄についてツイートしていました。かもいひとさんは文学や文豪に関して詳しいのでしょうか?

「全く詳しくないです。自分の文豪についての知識の大半は『Write'n'Fight』と『文豪とアルケミスト』からです。分からないことがあるたびにWikipediaや公式Wikiで調べています。芥川龍之介が雪駄を履いている写真については、フォロワーの方にリプライで教えていただいて知りました。」

――ご存知の範囲でお答えいただきたいのですが、本作の文豪の必殺技やMagic Arena(通称:文豪領域)は彼らの作品や逸話にちなんだものになっているのでしょうか?

「藪の中の芥川龍之介、巨大な鐘が宙に浮いているヘイミングウェイなど、作品名や作者本人のエピソードがそのままモチーフになった領域が多いです。ただマンゾーニのガイコツ谷やシェイクスピアの血の池地獄についてはよく分からないので、関連性を知っている方がいたら教えてほしいです。」

左端や右奥にガイコツがいます。

【文豪格ゲーのここが凄い2】バグさえ愛おしい

本作はインディーゲームらしく(?)様々なバグがあることでも知られています。

それも、永久パターンのほか、文豪が増殖しまくる、カメラ(視点)がどこか遠くへ行ってしまう、などインパクトの強いものばかり。

格闘ゲームにおけるバグ、バグと思われる仕様については賛否がありますが、本作ではそれさえも魅力の一つになっています。

かもいひとさんに聞いてみました

――本作は発売から2年が経ちますが、バグは順調に修正されているのでしょうか?また、アップデートの頻度についても教えていただきたいです。

「約1年前に高頻度でアップデートが行われた時期があり、そこで致命的なバグのほとんどは修正されました。そこで開発が満足してしまったのか、それ以降1年以上アップデートは来ていません。」

――幸か不幸か、バグは本作の魅力にもなっていると感じます。バグが修正されることについてはどう思っているのでしょうか?

「最初はゲーム自体が起動できなかったり、キャラクターが空中で無限にジャンプして上空に消えたりしていたので、その辺りのバグが修正されたことは良かったです。トルストイやラヴクラフトがバグ修正で大幅に弱体化したのは残念でしたが、個人的には直せる箇所はどんどん直してほしいです。ただ『Write'n'Fightはバグっていてほしい!』という方もいるので難しいところです。」

【文豪格ゲーのここが凄い3】高性能なPCで挑め!

本や写真から出てきたような独特なグラフィックの『Write'n'Fight』。

最新の美麗なCGとは一線を画すゲーム画面ですが、意外とPCの要求スペックが高いことでも知られています。

システム要件(Steamストアページより引用)
最低:
OS: Windows 10
プロセッサー: i5-74500 3.00 GHz
メモリー: 8 GB RAM
グラフィック: Nvidia GTX 1060
ストレージ: 6 GB の空き容量
サウンドカード: Integrated

発売時にはバグに加えてスペック不足で起動できないプレイヤーもいたのだとか……。

かもいひとさんに聞いてみました

――要求スペックが異様に高いと聞きますが、実際のところ動作が重くなることが多かったり、そもそも起動できないというようなことはあるのでしょうか?

「起動できないことの多くは恐らくグラフィックボードのスペックが足りていないことが原因なのですが、タイトルロゴのあと画面が暗転したまま進まないという報告はよく上がっています。『Write'n'Fight』はオプション画面からグラフィック設定が変更できないので、負荷を軽くすることもできません。比較的新しい格闘ゲームが起動できても『Write'n'Fight』が起動できないということもあるようです。」

『Write'n'Fight』の起動前のメモリ使用状況、右は起動後。本作だけで13GBが使用されています。

――かもいひとさんは、本作のためにPCを高性能なものにしたと伺っています。特にメモリは80GBと、ゲーミングPCとしても類を見ないスペックだと思います。『Write’n’Fight』のためだけにここまでするとは考えにくいのですが、お仕事で使うのがメインだったりするのでしょうか?

「『Write'n'Fight』をプレイするためと、『Write'n'Fight』の動画作成のために買い替えました。スペック自体は標準より高め程度ですが、仕事用のPCよりは高スペックです。以前のPCではメモリを13GB使用することがあったのでメモリを64GB追加しましたが持て余しています。グラフィックボードが足りていればメモリは盛らなくて良いので『Write'n'Fight』用PCを買う人は気を付けてください。」

左側のメモリの数値には、10.8/79.7GBという表示が。

――ぶっちゃけた話、『Write’n’Fight』のためにどれくらいお金を掛けているのでしょうか?

「PCは『Write'n'Fight』以外にも使えるのでノーカンかもしれませんが30万円程度です。去年、今年とEVO JAPANの会場で『Write'n'Fight』を遊んでいたのですが、その準備や交通費が7~8万円程度。4方向+9ボタンの操作に対応したコントローラーとしてVictrix Pro BFG(Amazonで3万円弱)やHaute Board(海外通販で5千円程度)を購入しました。あと『Write'n'Fight』をSteamギフトで20本ほど贈りましたが、それは2万円いかない程度だと思います。」

文豪格ゲーのために購入したというコントローラー。熱意がヤバい!

――本作は見ている限りでは高いスペックを要求するようなゲームに見えません。プレイしていて特に動作が重くなるポイントはあったりするのでしょうか?

「もうとにかく初期ステージの図書館が異常に重いです。置いてある本にすべてデータが入っているんじゃないかというぐらい重いです。キャラ固有の文豪的な領域も差があって、ラヴクラフトの領域では背景で3Dオブジェクトがゴリゴリに動いているせいか重くなります。あとヘミングウェイを選ぶとなぜかさらに重くなってラウンド開始前の待機時間が増えます。」

動作が重くなるというラヴクラフトの領域。いあ!いあ!くとぅるふ ふたぐん!

【文豪格ゲーのここが凄い4】独自システム満載の意欲作

本作は『ストリートファイター6』のモダン操作のように、1ボタンで必殺技を出すことができます(ただし、クールタイムが存在)。

格ゲーにおけるハードルとなりがちなコンボも存在しないため、初心者の人でも遊びやすいつくりになっているのも特徴です。

また、『ヴァンパイアセイヴァー』の”ダークフォース”を彷彿させるシステムや、さらには”danger zone”と呼ばれる一撃必殺になる領域もあるなど意欲的な面も多数あるゲームです。

ネタ的な側面ばかり注目される本作ですが、格闘ゲームとしてはどうなのでしょうか。

かもいひとさんに聞いてみました

――見た目だけでなくシステムも独特な面が多い本作ですが、格闘ゲームとしての駆け引きはしっかり味わえるのでしょうか?

「投げがない、ガードボタンでガードなので攻撃の表裏もない、コンボもほぼない、というゲームなので普通の格闘ゲームとはかなり違う駆け引きになります。体力回復ゾーンや文豪領域の取り合いになるのでアツい陣取りが楽しめます。」

自分側の画面端だとなぜか体力が回復する。

――キャラバランスがかなり歪だと聞きますが、現時点での最強キャラは誰でしょうか?

「ヘミングウェイが圧倒的に最強です。バグっていて試合中の大体が無敵時間なので、初めて使った人が引くぐらい強いです。YouTubeの動画にまとまっていますのでそちらを参照してください。(https://youtu.be/_8eLxJTch4w)」

かもいひとさんに色々聞いてみた

――本作や開発元メーカーに対する率直な感情が知りたいです。

「基本的には感謝してますが、バグ動画ばかり上げていて申し訳ないという気持ちと、もっとアップデートしてほしいという気持ちがあって複雑な気持ちです。開発には自由にやってほしいです。」

――X(旧Twitter)では、メーカーがかもいひとさんのポストに反応することも見受けられます。公式との関係性はどのような感じなのでしょうか?

「Twitterに投稿したバグ動画について一時期DMで再現方法などを聞かれて答えていました。開発に関わったりとかお金をもらっているとかはないです。文豪格ゲーやWrite'n'Fightというワードが含まれていたり動画をアップロードしたりすれば、自分に限らず大体反応してくれると思います。」

少し拙い日本語でバグ報告をする公式X。かもいひとさんへも感謝の意を示しています。

――発売から2年経つ本作ですが、今後のアップデートや展開で期待していることはありますか?

「対戦バランスに関する変更は来たものを受け入れますが、ネットワーク対戦は修正して欲しいです。対戦相手のプレイヤーネームが分からなかったり、ホスト側がラウンド開始前に一方的に殴られたりするところはシンプルに辛いです。同期ズレでお互い見えている画面が違っててとんでもないことになるときもあります。(※その様子は後日動画アップロード予定)」

――かもいひとさんは、ときに『Write’n’Fight』を他の人にプレゼントしていますよね。受け取った人のプレイ継続率はどれくらいなのでしょうか?また、どのような意図でプレゼントしているのでしょうか?

「20人ぐらいに配って1人だけそこそこプレイしてくれています。継続率でいうと5%です。配っている意図としては『Write'n'Fight』をプレイしたときのなんとも言えない気持ちを味わってほしいからです。ガチで対戦相手やプレイヤーが欲しいというよりは『Write'n'Fight』を体験した人の反応が見たいという理由ですね。」

――かもいひとさんはXのアイコンを『ギルティギア』のカイ=キスク(のようなもの)にしていますよね。元々格ゲープレイヤーだとお見受けしますが、ご自身の格ゲー歴を教えていただきたいです。

「『ギルティギアゼクス』からゲーセンでの格ゲー対戦を始めて、"鴨せいろ"というPNでカイのまとめサイト運営もやっていました。アークシステムワークスのゲームは大体触ってきていますが、データを調べたりコンボを作るのが好きで対戦は得意ではないです。」

かもいひとさんのアイコン。

――かもいひとさんが使用する”人類の希望”という異名のようなものは恐らくカイが由来だと思います。また、投稿動画で使用している機械音声は”人類の希望ボイス”と呼ばれていますが、これは誰が言い始めたのでしょうか?

「希望ボイスは動画を観た方が呼び始めたのですが、発端は分かりません……。VOICEPEAK 商用可能 6ナレーターセット(https://www.ah-soft.com/voice/6nare/)の"男性1"ですぐ作れるのでおすすめです(※)。動画での使用音声をゆっくりボイスから希望ボイスに切り替えたときは、不評過ぎて泣きました。最近は出番が減り気味ですがまた希望ボイスで動画を作る予定です。」

(※)ダウンロード版のお値段は23,800円(税込)。

――『Write’n’Fight』以外に好きな格ゲーを教えてください。

「『ギルティギア』シリーズ、『ブレイブルー』シリーズです。アークシステムワークスは最高です。訴えないでください。『GUILTY GEAR -STRIVE-』(GGST)好評発売中です。」

ほかには『戦国BASARAX』。このゲームのコンボが好きすぎて人生が狂いました。すごいゲームです。」

かもいひとさんの『GGST』紹介動画は開始2秒でこんな感じ。それくらい魅力的なゲームなんですよ!

――最後に『Write’n’Fight』に興味がある人に向けて一言お願いします!

「最近は真面目なゲームが流行っていますが、息抜きで奇妙なゲームをするのも楽しいのでおすすめです。定価の1,320円で買うのは気が引けるという方はセールで最大40%引きされるのでSteamのウィッシュリストに入れて待っていてください。変なゲームですが、もし対戦したいという方がいたら私のTwitterへのリプライや非公式Discordサーバーで誘ってください!」

「文豪になれ!」(チップ・ザナフ風に)

独特な魅力に溢れる『Write'n'Fight』。バランス調整が頻繁に行われたり、競技化されたりしている昨今のゲームではこの面白さを味わうことはできないでしょう。

アップデートがない時代のゲームにはバグや調整不足は少なからずあり、それも含めて愛されていました。また、お小遣いを貯めて買ったゲームを半ば意地でプレイし、やっているうちにその奥深さや楽しさに気付くなんてことも。『Write'n'Fight』は、今の私たちが忘れてしまったものを取り戻させてくれるといったら言い過ぎでしょうか。

友だちとワイワイやって笑ったり、あえて深いところまで極めてみたり……。少し視点を変えてみると、また違った面白さに出会えますよ。

かもいひとさん関連リンク
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/kamoihito
X:https://x.com/kamoihito
(非公式)Write'n'Fight Discordサーバー:https://discord.gg/FfBjmjzP

『Write'n'Fight』関連リンク
Steamストアページ:https://store.steampowered.com/app/1666500/Write_n_Fight/
X:https://x.com/WriteNFight

(※本取材はテキストベースにて行いましたが、一部読みやすいように会話風に再構成しています)

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