eスポーツ団体 独占取材

"eスポーツを「文化」にするために"サードウェーブ榎本副社長インタビュー【前編】

全国高校eスポーツ選手権を毎日新聞社と共同開催し、独自の仕掛けでeスポーツ事業を次々と展開している株式会社サードウェーブ。

「LFS池袋」「eスポーツ部発足支援プログラム」「高校生大会」JHESEF設立へ至るまでの経緯や事業への想い、今後の展望などについてサードウェーブ副社長の榎本一郎氏に伺いました。

メモ

榎本一郎(えのもと いちろう)氏プロフィール
株式会社 サードウェーブ 取締役副社長

IBM入社後、1992年よりPC事業に従事。1998年同社首都圏営業部長に就任し、2005年LenovoへのPC事業売却と共に移籍。同社パートナー副事業部長就任、2008年DELLコンシューマー営業統括本部長、2010年日本acer 上席執行役員2013年AOS株式会社 上席執行役員、2015年プラスワン・マーケティング株式会社 常務取締役を歴任。2018年、同8月に株式会社サードウェーブ常務取締役に就任し、同年8月取締役副社長就任した(現任)

「eスポーツを文化にしてくれ」当時は難しいと感じた社長尾崎氏のお題

ーー非常にパワフルかつ行動的な方ということで、御社ご担当者様からも「いつも新しい発見があり、こんなに面白い人はいない」(誉め言葉ですよ!)とお噂を聞いています。日本のPC市場を30年近い年月に渡り見続けてこられて、eスポーツ事業に携わることになったきっかけを教えて頂けますか?

榎本氏:
eスポーツでは本当に、今まで尾崎(サードウェーブ 代表取締役社長 尾崎健介氏)がずっと大きなムーブメントやブームを自分達でも起こしてきたし、乗っかってきた。だけどブームで終わっちゃってたんですね、この十何年か。

サードウェーブはゲームをやる人のためのeスポーツ最適マシンはなにかという部分で、ずっと積み上げ愛され続けてきて、ジワジワと伸ばさせてもらってきた。尾崎はもう一回大きなヤマがくると結構前から言ってました。彼が具体的に動きを見定めたのは2年半くらい前でした。

それで、「榎本さんのように馬力のある人が必要だ」と声をかけて頂いてサードウェーブに入社しました。要は、畑を耕すときに良い芽を出すために地面を均さなきゃいけないじゃないですか。

パワフルな人がeスポーツ業界内で旗振ってくれると業界の為にもなるし、サードウェーブが目指すものはブームじゃなくて文化にしたい。エコシステムを作りたい。その中の中心にいるのはもちろんユーザーなんだけど、エコシステムの環境に必要な一社になりたい。これを実現してほしいと。

売り上げをいくらにしてくれとか、PCを何台売ってほしいとかじゃなくて、「eスポーツを文化にしてくれ」っていわれて。

ーーなんというか‥とてつもなく壮大なビジョンに感じますね、文化を作り上げるというのは。

榎本氏:
最初は断ろうと思って(笑)。お題が難しすぎて。尾崎が言うようにそんな簡単に世の中に文化は作れないし。最初に話を受けたときは断る気満々でした。

ーーそうなんですか!?

榎本氏:
難しいし、概念的だし。何をもって評価してもらえるのか分からないし。ビジネス的に言うと、話が大きすぎちゃって「日本の新しい文化を一緒に作ろうよ」って言われて「そうですね」って言えないじゃないですか、なかなか(笑)。

偶然と思えない奇跡が重なって入社を決めた

ーー 一言で文化を作るといっても、コンピューター業界で長年キャリアを積まれてきた方だからこそ分かるハードルの高さもありそうですよね。それでも最終的に参画されたというのはどういった理由からだったんですか?

榎本氏:
いやもうね、縁そのもので‥。尾崎に誘われて、もう断ろうと思ってた時、たまたま5年ぶりくらいに歯が欠けて、歯医者に行ったんですよ。

看護師さんが待つ間読んでてくれって、100冊程ある中から3冊くらい手元に持ってきてくれて。なんとその一番上においてあった雑誌に書いてあったのが『eスポーツ特集』だった。

「へ~、これ尾崎さんが言ってたeスポーツなんだ」って開いて読んでたら、取材記事でたまたま尾崎が載ってたんですよ(笑)。

こんなことないなって。5年ぶりくらいに歯医者行ったら、断ろうと思ってた事業の特集で、更に尾崎本人が取材を受けた雑誌が手元に来る奇跡なんてないじゃないですか、ドッキリ以外(笑)。周りを見渡してドッキリじゃないか確認したりしてね(笑)。運命を感じましたね。

ーーそれは本当にご縁を感じるというか‥、偶然とは思えない出来事ですね。

榎本氏:
歯医者の後すぐ尾崎に電話して「もう少し具体的に聞かせてくれ」って連絡して、(サードウェーブに)入ることに決めました。正式に入ったのは2018年の2月です。

文化に変えるには『競技施設』『高校の部活動』

ーー2018年にはeスポーツ施設のルフス池袋eスポーツ部発足支援プログラムの開始、全国高校eスポーツ選手権の開催などeスポーツに関連した事業のイベントがどっと押し寄せて、御自身はかなり目まぐるしかったんじゃないでしょうか。

榎本氏:
ルフスを作った時、「ここから世界に飛び立つような選手が出てきてほしい」「eスポーツを俺はここで始めたんだ」と、施設を利用する人に感じてほしいというすごい熱い想いがあったんです。でもただ施設を作っただけではブームで終わってしまう。ブームで終わらせないためには、文化にしないといけないと思っていました。

そこでふつふつと沸いてきた構想が、毎日新聞社とのアライアンスに繋がるんですよ。文化にするには高校の部活動がとても重要だと思いました。元々私は野球をやっていて、高校受験当時の自分には、入りたい高校に野球部があることが重要な要素だったんです。高校でも野球をやりたかったので。

eスポーツもそうなったら、ブームじゃなくて文化になるなと思った。

日本の文化の大部分は高校の部活動でひとつ体現されるなと思ったんですよ。野球だけじゃなく、サッカーだってバレーだって、そこで活躍した人が次に進む道として大学を選ぶ、社会人を選ぶ、プロを選ぶ、やっぱり才能無いから趣味でやりたい、とか。色んな選択肢が広がりますが、その根っこにあるのが高校の部活動だと思ったんです。

だからeスポーツ部も高校にあるべきだと思っているときに、毎日新聞社といろんなeスポーツ大会の座組をしたいと相談していた中で「高校大会」っていうのがありまして。

そこから、「高校に特化したものをひとつやろう」って決めたのが「第一回 全国高等学校eスポーツ選手権」

大きく言うと、ムーブメントというかブームを文化に変えるのに必要なのが、eスポーツにとっては『競技施設』であり、『高校の部活動』という風に勝手に定義したんですね。競技施設を作るっていうところまでは尾崎の理念と全くイコールでした。

ーー尾崎社長は競技施設を持つという構想を早い段階で持たれていたんですね。

急遽決まったレンタルモデルの部活動支援「一回商売は捨てて」

榎本氏:
高校に部が必要だって言ったのは私が入ってから。「【スポーツ】というのであれば、部活であるべきだ」と尾崎に相談したら100%同意してくれた。

大会に参加する、部活動にするとなると道具(ハードウェア)が必要じゃないですか。野球でいうとグローブとバットが必要だと。

サードウェーブはグローブとバットを作っている。「これを格安でなんとか学校に提供したいんだけど‥」と相談したところ、尾崎が「いや、そんな中途半端なことをしないでタダにしよう」と言ったんです。

うちはパソコン屋だけど、一旦商売は捨てて、まずは広めよう。初年度は何校申し込んでくれるかわからないけど、大会参加を条件に3年間無償でレンタルにしようと。

ーーそうだったんですか!大会の方が最初に決まっていて、無償レンタルのサービスがその後に組まれたものだったんですね。そこから1校につき5台のゲーミングPCを無償レンタルされることに決まったわけですよね。当初導入目標とされていたのは何校だったでしょうか。

榎本氏:初年度の目標は100校です。78校申し込みがあって、2年目のいま、トータル120ですね。

ーー2年目からはサービス内容を変えられてますよね。

榎本氏
変えてます。2年目は3年間無償ではなく最後の1年間は有償ですよと。言葉にするのが難しいですが、eスポーツを文化として続けるために、自分達で頑張って環境を作った、維持していくんだっていうのを一緒にやっていってほしいのです。

そのお手伝いはもちろんします。でもなるべく学校の負担は少ない方がいいから、ここで儲けるのは本当にやめようって決めてます。最低限の経費ですね、負担いただくのは。

部ができたら、仮に3年間は無償で4年後有償ですとなってもその時までに色々な準備ができるし、部員が広がってるかもしれないし、先々一人当たりの部費として出す拠出額もそんなになくても済むかもしれない。

ここはご理解いただくのは難しいかもしれないけど、高校生相手に商売しようとしてるんじゃなくて、どうやったら最低限のコストで整えてあげられるかを考えてるんです。そこをご理解頂けるようなアナウンスメントをこれからしていきたいですね。

12月28日、29日には「第二回 高校生eスポーツ選手権」の決勝大会が予定されています。また同時に、【eスポーツ発足支援プログラム】についても新たな発表があるとのこと。どんな内容になるのか、今からとても気になります!

次回は榎本氏に『一般社団法人 全国高等学校eスポーツ連盟 』(略称:JHSEF ジェセフ)設立の経緯や「高校生のeスポーツにどのような変化が期待できるのか」お伺いします。

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